「ストリートファイター」の芸能界最強プレーヤーとして、eスポーツ関連のイベントや番組に出演してきたゴールデンボンバーの歌広場淳さん。その中で、「eスポーツの魅力は下手でもいいこと」に気づいたという(詳細は前回記事)。その意味は? 今後の取り組みと新たな挑戦とは? 集中連載の4回目。
下手さを見せるから勝つことの価値が伝わる
――前回の記事「金爆・歌広場淳、eスポーツの魅力は「下手でもいい」こと」で、「eスポーツの魅力は下手でもいいこと」に気づいた、自分の下手さを見せる動画配信をしてみたいというお話がありました。もう少し詳しく聞かせてください。
歌広場淳さん(以下、歌広場): よく考えてみると、芸能界に入る前、例えば高校時代など、ゲームが純粋な趣味だった頃は、スポーツや勉強が得意な人たちから「よく分からないけど、ゲームをやってるお前は楽しそうだな」って言われていたんですよ。
その瞬間、僕は勉強でもスポーツでも勝てない人たちが認めるものを1つ持てていて、そこが自分のアイデンティティーにもつながっていたんです。その頃の、自由で楽しかったゲームとの付き合い方を、もう一度、取り戻したいと。
「歌広場って何がやりたいのか分からないけど楽しそうだな!」「ゲームばっかりやっているけど、なんかいいよね!」。そんなふうに言われるようになりたいんですよね。
――『ストリートファイターⅤ』では常に強さを求められてきたけれど、そこから離れて違うゲームに挑戦することで「下手でもいい存在」になれるということですね。
歌広場: 僕の下手さを知ってもらえば、『ストリートファイターⅤ』に戻ったとき、勝つことの価値が改めて評価される気がしますし、負けることの当然さも理解してもらえるんじゃないかと思っています。
プロならば強くあらねばならない、負けることは許されないという呪縛に、多くのプロゲーマーが病み始めた時期が実はありまして。例えば、大阪を拠点とするプロeスポーツチーム「CYCLOPS athlete gaming」にGO1さんという選手がいます。『ストリートファイターⅤ』や『ドラゴンボール ファイターズ』が得意な、泣く子も黙る最強の格闘ゲーマーで、ずっと勝ち続けていたにもかかわらず、ずっと病んでいたんですよね。連載第2回でお話しした、この1年の僕と同じような悩みを抱いていたんです。
――強くなければならないという思いに縛られていたんですね?
歌広場: いくら勝っても2位ではダメという状況です。でもゲームって、もっと言えば、プロスポーツって、そういうものではない。負けて当然、負けてもプロとして戦い続けることに意味がある。そこを多くの人に知ってもらいたいと思います。
未知のゲームに挑戦したくて仕方がない
――今後は『ストリートファイターⅤ』以外のタイトルにも活動の幅を広げていくということですね?
歌広場: 以前は『ストリートファイターⅤ』さえ遊んでいられればよかったんですが、今はやったことがないゲームに挑戦したくて仕方がないんです。
例えば、eスポーツでは『Call of Duty』や『League of Legends』といったゲームも盛んです。今までも仕事でこれらのタイトルについてコメントを求められることはありましたし、知識として知ってはいましたが、遊んだことはなくて。実際にやったら僕はボコボコにされるでしょうが、オフの時間にそうしたゲームをずっと遊んでいる自分がもう想像できていて、それがちょっと楽しくなってきました(笑)。
釣りをする人が行ったことのない釣り場の地図を見て想像を巡らせるのと、同じような楽しみなんじゃないかと思います。
――最近、eスポーツは陸上競技によく例えられます。同じくくりでも、100メートル走と棒高跳び、ハンマー投げは全く違う。同じようにeスポーツも、ゲームが違えば中身は全く違います。
歌広場: そうですね。僕は得意の『ストリートファイターⅤ』をちょっとだけ離れて、全く違う競技に挑戦しようとしているところですね。
1周も2周も回ってゲームをつまらなく感じた時期があったわけですが、他のゲームに手を広げようという意識の変化は、eスポーツという競技、もっと言えばゲームへの愛に再び気づけた瞬間なのかもしれません。
――さらに思いっきり遡って、ゲームに出会った頃に「つまらない」と感じた野球ゲームに回帰するのもいいかもしれませんね(笑)(詳細は「金爆・歌広場淳、「eスポーツ元年」の到来を視聴者の反応で実感」)。
歌広場: そうなんですよ! 『実況パワフルプロ野球(以下、パワプロ)』もやってみたいんですよ! というのも、芸能界に「『パワプロ』だったらやるよ」っていう人、いっぱいいるんですね。
僕は運動神経がないので、スポーツ系のゲームは全くプレーしていませんでした。でも、『パワプロ』が好きっていう人も、リアルの競技が得意な人ばかりではありません。むしろ実際の野球はやらない人のほうが多いかもしれない。
「ゲームが好き」という共通項がありながら、自分はそのゲームをやらないからと会話してこなかったのは、自らコミュニケーションを遮断していたのと同じです。これからは、苦手でもチャレンジしたい。格闘ゲームを始めた頃、強い人とコミュニケーションが取れなくて、共通の言語を手に入れるために強くなろうとしていました。当時と似た構図です。そういう意味では、新たなゲームに挑戦することは、新たな言語を手に入れるのに近い感覚がありますね。
総合ゲームエンタメ集団「ReMG」に参加
――ゲーム配信に関して、具体的な計画はあるんですか?
歌広場: 実は総合ゲームエンターテインメント集団「ReMG(THE REBELS eMPIRE GAMING PROJECT、レムジー)」に「PLAYeRS」として加入しました。ReMGは、レゲエパンクバンド・SiMのボーカルであるMAHさんが率いるプロジェクトで、ほかにDragon Ashのドラマーの桜井誠さんなどが参加しています。
ReMGへの加入を決めたのは、ゴールデンボンバーのファンにも喜んでもらいたいからです。というのも、僕がゲームを通じて番組に出ることは応援してくれても、ゲームを遊ぶこと自体はあまり楽しんでくださらないファンの方もいらっしゃいます。
でも、ReMGでは、大先輩のアーティストたち、それもジャンルが全く違う方たちとの活動です。そこに参加することになれば、ゴールデンボンバーのファンも「やったじゃん!」と喜んでくれるだろうと思っています。
――本業であるゴールデンボンバーの活動に即した文脈があるんですね!
歌広場: そうです! しかも、MAHさんも桜井さんもゲームはめちゃくちゃ好きですが、格闘ゲームはやってこなかった人たちなんです。だから、彼らが得意なゲームでは僕は「ヘタクソな自分」でいられますし、『ストリートファイターⅤ』では彼らのヘタクソな部分をうまく引き出せるじゃないですか? これはいろんな意味で自分にピッタリだな、と。
――それぞれが得意なゲームが違うんですね。
歌広場: しかもその不得意なゲームに悪戦苦闘する様子を、ゲームが好きな人たちだけではなくて、音楽が好きな人たちにもより多く見てもらえるということが面白いんです。
具体的にどんな活動をしていくかは模索中ですが、実現すると僕という人間のイメージがガラッと変わっちゃうかもしれないですね。「コイツ、こんなにヘタクソなのにあんなに偉そうにしていたのかよ!?」とか「口ではあんなに偉そうなことを言ってたのに、オレのほうがうまいじゃん!」とか(笑)。
新たな部分というか、本当の僕を見てもらえる可能性があるんじゃないかと思っています。
――図らずも着せられてしまった「ゲームのうまい歌広場」という衣装を脱ぐわけですね。
歌広場: そうですね。着たかったわけでもないのに着てしまったその服が窮屈で仕方なかったんです。それは自分が成長したからこそでもあるんですけどね。
この活動を通じて新しい服を着たい。新しい服を手に入れたら、それを着てまた出かけたくなるじゃないですか。そして、いったん脱いだ『ストリートファイターⅤ』を仕立て直して、もう1回着たいという欲もあるんです。
※5回目(最終回)に続く
(写真/酒井康治)