2019年9月12~15日に開催される「東京ゲームショウ2019(TGS2019)」では、eスポーツ大会が多数開催。18年に続き日経クロストレンドのTGS2019特設サイトのゲストリポーターを務めるゴールデンボンバーの歌広場淳さんに、eスポーツシーンの今を聞く。集中連載の1回目。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さん
ゴールデンボンバーの歌広場淳さん
歌広場 淳(うたひろば じゅん)さん
1985年生まれ。ヴィジュアル系エアーバンド「ゴールデンボンバー」のベース担当。大のゲーム好きで、全国ツアー中は各地へアーケードコントローラーを持ち回り、会場や宿泊ホテルでゲームを行うほど。eスポーツイベントに自ら出場したり、解説やMCも務めたりと、eスポーツへの造詣も深い

 eスポーツの話題が一気に花開いた2018年。大のゲーム好きで、カプコンの対戦格闘ゲーム「ストリートファイター」シリーズのすご腕プレーヤーとしても知られる歌広場淳さんは、eスポーツの伝道師として、さまざまな番組やイベントに出演し、その魅力を広く伝えてきた。

 歌広場さんにとって、ゲームの楽しさとは何か。“eスポーツ元年”と呼ばれた18年から現在に至るこの1年は、どんなものだったのか? 自身のゲーム遍歴から、イベントやテレビ番組の制作サイドに立つことで見えたeスポーツへの期待と課題まで語ってもらった。

“eスポーツ元年”がやっと来た

――この1年でeスポーツを取り巻く環境はかなり変化しました。歌広場さん自身、eスポーツ関連のイベントやテレビ番組の出演などで大忙しでしたね。

歌広場淳さん(以下、歌広場): 激動でした。この1年間いろいろなことがあって、僕もゲームやeスポーツに関する考えがかなり変わったと思います。昨年のインタビュー(関連記事「金爆・歌広場淳『人生の大事なことはゲームセンターで学んだ』(1)」)と比べると、全然違うことを言ってしまうかもしれません(笑)。

――そのあたりを伺っていきたいと思いますが、まずは改めて歌広場さんとゲームの出会いから聞かせてください。

歌広場: 僕が最初にゲームに触れたのは、父が買ってきてくれた任天堂の「ファミリーコンピュータ」でした。野球ゲームのソフトも買ってきてくれて、それが初めて遊んだゲームだったんですが、僕はあまり楽しめなかったんです。

 理由を考えてみたら「自分で選んだタイトルじゃなかったから」だったんですね。そこから、自分が楽しいと思えるゲームを探し始めました。そして、初めて自分で選んで買ってもらったのが、当時のナムコが出していた『ハイドライド3 闇からの訪問者』だったんです。

 このゲームは難度が高くてクリアもできなかったんですが、めちゃくちゃ楽しくて。そうした経験が根底にあるので、ゲームに限らず「自分で選ぶこと」を楽しむ少年になっていきました。

 今でこそeスポーツという言葉も浸透しつつありますが、ゲームって本質的に「無駄なもの」なんですよね。以前は「ゲームをやっている」と言うと、「オタクだね」とか「何か意味があるの?」といった反応が返ってくることも珍しくありませんでした。

――それでもゲームを止めることはなかったんですね。

歌広場: そこは「自分で選んだ遊びだ」という自負があったからでしょうね。好きという自覚がとても強かったんだと思います。結果的にゲームが「eスポーツ」として日の目を見る時代が訪れたことで、「無駄なもの」が「仕事」として関わるものに変わりました。

 近年は毎年のように「日本でもeスポーツが本格的に幕を開ける」と言われていましたが、なかなかそうはならなかった。それだけに18年の「eスポーツ元年」は「やっと来た」という思いと同時に、「突然」という感覚もありました。もちろん、いろいろなところで多くの方が努力してきた結果が今のeスポーツ隆盛につながっているのですが、それを踏まえても突然でしたね。eスポーツの大会も増えましたし、一気に認知が広がったと思います。

eスポーツの「翻訳者」としてハマった

――そんな中、歌広場さんも、eスポーツの解説や大会のMCなど、活動の幅が大きく広がりましたね。

歌広場: イベントに出させていただく機会が増えましたね。プレーヤーでも実況でも解説でもなく、ゲストという肩書で呼ばれることが多かったです。実況も解説もプロの方がいて、その方たちの言葉は、ゲームのファンにはきちんと伝わります。一方で、ゲームが特に好きではない層に伝える翻訳者のような存在をeスポーツ業界は探していたんだと思います。そこにうまくハマったのが僕だったのかな、と。

 ゲームの知識がそれなりにあって、それを面白おかしく翻訳して話すといったことが僕は好きなんです。例えば、「ストリートファイター」の大会で、プロゲーマーのときど選手と梅原大吾選手がチームを組んだら、ファンにはすごいと一発で分かること。でも、知らない人には伝わりにくい。そこで、「これはタモリさんと明石家さんまさんがチームを組んだくらいにすごいことなんだよ」と翻訳するといった具合ですね。

 その意味で、僕の立ち位置は「ゲームの好きなタレント」のままで、大きな変化はありませんでした。ただ、eスポーツが注目を浴びたが故に、18年より前のeスポーツがいかに狭い世界であったかを実感しました。

――関わる人の幅が広がったといったことでしょうか?

歌広場: お笑いの方とか、芸能人とか、ゲームに精通していない人までゲーム関連の番組やイベントに呼ばれるようになりました。もちろん、ゲーム好きの人からは「なんでゲームに詳しくない人を呼ぶんだ?」という疑問の声が上がるのですが、イベントを運営する側や番組の制作者にしてみれば、興味を持ってくれる人を増やすためには仕方ないという判断なんですね。

 今まではそういう疑問を持つようなシチュエーション自体がなかったわけで、だから逆に「始まったな」と思いました。

eスポーツが盛り上がったことで、「eスポーツがいかに狭い世界であったかを実感した」という歌広場淳さん
eスポーツが盛り上がったことで、「eスポーツがいかに狭い世界であったかを実感した」という歌広場淳さん

――洋画のふき替えやアニメキャラクターの声を声優を本職としない人が担当するときに、ファンから反発が起こることがありますが、それに似ていますね。ゲーマーとしてはその文脈にあった人選であってほしいという思いがあります。

歌広場: ゲーマー視点ではその疑問は当然なんですが、運営側として見ると、いろんなメディアにどれだけ露出するか、テレビ番組で取り上げられて、1秒でも長く映ることも大事です。だから今をときめくタレントを呼ぶこともあるんですよね。

――たとえ違和感があっても大きな話題となれば、回り回ってゲームファンのためにもなりますね。

歌広場: そうなんです。そう考えると、呼ばれたタレントや芸能人にゲーム愛があることが、みんなが一番ハッピーになれる状況と言えます。場違いに思われた人が、実はゲームのことをちゃんと分かっていると伝われば、ファンが抱いた疑問や違和感がプラスの評価に転じる可能性がある。eスポーツやゲームにとって、僕がその「分かっている存在」になれるように頑張ってきた1年でした。

 ゲームが好きだから僕が呼ばれているのはみんな分かっています。そのうえで「歌広場って、本当にゲームが好きなの? どれだけ分かっているの?」という疑問や視線と戦ってきたようなところがありますね。

――以前のインタビューでも痛感しましたが、歌広場さんの「ゲーム好き」は芸能人の中でもちょっと突出している感じがありますが。

歌広場: 言葉は悪いかもしれませんが、一般的にゲーム好きと言われるタレントさんの5億倍くらいは好きなんじゃないですかね(笑)。

視聴者の反応でeスポーツ市場の拡大を実感

――eスポーツが注目されたことで、これまでゲームに関係なかった企業がさまざまな形でeスポーツに参入するようになりました。大手企業による大会やチームへの協賛も増えています。この影響をどう見ますか。

歌広場: お互いに知らない世界を知るいいチャンスなんじゃないかと思います。eスポーツのファンからすると、(大会や選手への協賛を機に)今まで知らなかったメーカーや商品を知るきっかけになるでしょうし、企業としても、今まで振り向いてもらえなかった層にアピールできるチャンスになるかもしれません。

 どの趣味もそうでしょうが、ゲーマーってゲームの世界だけあればいいと思っていて、その閉じた世界の中で、自分は何でも知っていると考えているふしがあるんです。だから異業種や知らない人が入ってきたときに、異物として嫌悪感を抱く人もいました。でも、そこで拒絶するのではなく、その外側にはもっと広い知らない世界が広がっていると知るきっかけになるといいですね。

――この1年で印象的だった出来事はありますか。

歌広場: 一番印象深かったのは、RAGE(CyberZが運営する国内最大級のeスポーツリーグ)に関わったときのことですね。僕は格闘ゲーム『ストリートファイターⅤ』のトーナメントにゲストとして定期的に出演させていただいているのですが、当初は「歌広場、引っ込め!」というコメントがたくさん付いたんです。それと同時に、「歌広場のことを何も分かっていないヤツがこんなに多いんだね」っていうコメントも出てきました。これは面白い現象だと思いました。

 それというのも、前者はゲーム関連の配信を見るのが好きでも『ストリートファイターⅤ』のゲームはあまり遊ばない人、後者は『ストリートファイターⅤ』を遊んでいる人なんですよ。

「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」にもゲストとして出演(写真/岡安学)
「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」にもゲストとして出演(写真/岡安学)

――なるほど。『ストリートファイターⅤ』と歌広場さんの関わりを知らない人が、このゲームの配信をそれだけたくさん見るようになった、ということなんですね。

歌広場: そうなんです。ゲームをあまり遊ばず、RAGEの配信を見るだけの人がそれだけいるということです。プレーヤーとしてのゲームタイトルのファンではなく、「eスポーツのファン」がそれだけ増えている。そこがとても印象的でした。

――広く言えばeスポーツを観覧する楽しさが確実に広がってきているんですね。

歌広場: 『ストリートファイターⅤ』に関して言うなら、この1年は大会としても新たな動きがあって面白かったですね。

 例えば、18年に始まった「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」は、プロゲーマー1人、プロには及ばないがかなり腕の立つ人が1人、このイベントを機に新たにゲームを始めた初心者が1人の3人1組で戦うチーム戦のトーナメント。初心者が成長する様子を見せることで、eスポーツに興味はあるけどやったことがない人の背中を押そうということですね。それともう1つ、イベント運営側やゲームメーカーが、「ゲームはゲーマーのためだけのものではない」と提示する意味もあったと思うんです。

――eスポーツの話題ではどうしても「プロ」がフォーカスされがちですが、盛り上げるためにはゲームに興味を持ってくれる一般の層をもっと厚くする努力が必要です。RAGEの取り組みは、プロの戦いを盛り上げることとその層を拡大すること、その2つを同時に行う感じがありました。

歌広場: まさにそうですね。市場規模が何億円、大会賞金が何億円と、エクストリームな部分ばかりがとにかく注目を浴びた18年でした。でも、ゲームやeスポーツの面白さはそれだけじゃないと示す取り組みだったと思います。1つの大会で初心者とプロの対比が生まれ、結果としてプロゲーマーのすごさを際立たせることにつながっていました。

※2回目に続く

(写真/酒井康治=日経クロストレンド編集)