コロナ以降の世界をどう生き抜くか。外食チェーンは「次の一手」を繰り出すことを迫られている。そのヒントとなるのが、エー・ピーカンパニー(東京・豊島)が手掛ける居酒屋「塚田農場」が1週間で立ち上げたEC事業、「おうち塚田農場」だ。新規事業を率いた同社のCOO・野本周作氏が、コロナ禍での苦労とその強さの源泉を語る。
※日経トレンディ2020年9月号の記事を再構成
新型コロナウイルスによる打撃を最も深刻に受けている外食産業。2020年3月30日は、小池百合子東京都知事が「夜の街」など飲食業のリスクに言及し、夜間の外出自粛を要請した日だ。緊張と混乱のムードが高まる中、4月2日という突出した速さで「グループ全店一斉休業」を決めたのが、地鶏居酒屋「塚田農場」などを展開するエー・ピーカンパニー(以下、AP)だ。
同社はさらに5日後の4月7日には、休業による余剰食材を販売するEC事業「おうち塚田農場」のテスト販売を開始。店舗で提供していた料理をチルドで届ける「家飲み宅配便」で中食への参入を進めた。この未曾有の危機に、1週間を切る速さでの“超スピード中食参入”はいかにして可能となったのか。
一連の施策の指揮を執ったのは、同社取締役執行役員COOの野本周作氏だ。コロナ禍の怒涛の日々を振り返り、野本氏は「とにかく出血を止めるために、必死で動いていたというのが本音」と明かす。
エー・ピーカンパニー 取締役執行役員COO
実は塚田農場は、コロナ以前から危機を迎えていた。かつて「地鶏ブーム」を巻き起こした店舗数は2016年をピークに減少に転じ、19年上期にも閉店が続いていた。17年、18年と赤字が続き、また赤字となれば上場廃止を迫られる。野本氏が同社に入社したのは、18年だった。様々な施策を打って19年下期にじりじりと回復に向き、ようやく20年3月期の黒字達成が見えてきたところで、コロナショックに襲われた。書き入れ時である年度末の歓送迎会も吹っ飛んだ。
「毎日店の売り上げの数字を見続けて、行けそうだ、いやどうだ、と言っているさなかでした。経営的には大変なことになるとは分かっていたけれども、店がクラスターの発生源となっては取り返しのつかないことになる。何より、従業員とお客様の安全が最優先。3月30日、志村けんさんが亡くなった次の日。小池知事の会見の後、夜中まで経営陣で数字を見ながら議論し、ギリギリだけどいける、休業しようと決断しました」(野本氏)
休業期間は当初、首都圏は3週間・首都圏以外は10日間の予定だったが、後に5月末までの延長を発表。プレスリリースの閲覧数は昨年平均の最大100倍になったというから、世間の注目の高さが分かる。
「香港やシンガポールなど海外事業の情報から、事態は長期化すると予測できていました。一方で、生産現場では鶏はノンストップで育つ。さばいて冷凍保存するのも限界があります。店を開けない状況下で膨らみ続ける在庫と赤字にどう対処するのか。早急に知恵を絞る必要がありました」(野本氏)
殺処分という選択肢は「なかった」。それは同社が創業以来、安心できる高品質の食提供を掲げ、生産・販売直結型の6次産業に挑戦してきた意義を覆すものだからだ。
「ならば、食材をお客様に直接売ろうという発想。社長の即断で、方針は決まりました」(野本氏)。
問題は、どう売るか。野本氏が頭を抱えていたとき、現場から「あのサイトがまだ生きています!」と声が上がった。店舗のメニューに使っていたドレッシングや味噌を販売していたECサイトだった。
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