2019年に新業態の「ワークマンプラス」を成功させ、ワークマンの勢いをけん引する土屋哲雄専務は、どのようなリーダーシップを発揮したのか。「頑張りはいらない」「先にアメをあげる」「残業させるくらいならやらない」…驚きのリーダー論を、日経トレンディ編集長・三谷弘美が聞いた。
※日経トレンディ2020年8月号の記事を再構成
コロナ禍をものともせず成長を続けるワークマン。6月の前年比売上高は、既存店137.2%、全店144.0%と驚異的な数字だ。一般客向けの新業態「ワークマンプラス」が伸びているのはもちろん、既存のワークマンも好調を維持している。
キーパーソンは、ワークマンプラスを立ち上げた同社の土屋哲雄専務。日経クロストレンドの酒井大輔記者が執筆した、書籍『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』(日経BP)からは、土屋専務の全く新しいリーダーシップを感じられる。彼の斬新な考えはどう機能しているのか。
ワークマン専務取締役
※土屋氏は画像左上。画像右上は、書籍を執筆した酒井大輔記者。画像下が、聞き手の日経トレンディ編集長・三谷弘美
日経トレンディ編集長・三谷弘美(以下、三谷) 私は、書籍を執筆した酒井大輔記者が日経トレンディにいたときに一緒に仕事をしてきて、ワークマンを2019年ヒット商品ベスト30の1位に選定したときにもその場にいました。書籍のゲラを読んだとき、思わず涙が……。私たちは間違ってなかったな、と。単に成功した事業というだけではなくて、社員、メーカー、フランチャイズ(FC)店、すべての人が幸せになれる経営があることに、あらためて感動したんです。
土屋哲雄氏(以下、土屋氏) 私も実は本を読んで、「こんないいこと言ったかな」と(笑)。新型コロナの問題が持ち上がってからはずっと在宅勤務ですので、酒井記者とは電話でたくさん話をしましたがそれがこうなるとは。
この働き方、ワークマンには合っていますね。皆、分散しているけれども、家でくつろぎながらできることをやる。このほうが持続可能な働き方じゃないかと感じています。
三谷 新型コロナにも負けず成長を続けている、一番の要因は何だと分析されていますか。
土屋氏 8割の店舗が、時間短縮営業や臨時休業をしましたが、その割には良かったですよね。競合が閉まってしまった中で、「ワークマンでも行くか」となったのかなと(笑)。今後ショッピングモールの店舗は、100%元に戻るのかというと疑問でしょう。我々はほとんどの店舗が路面店ですから、その点は良かったのかもしれません。
うちの近くの店舗では、7時から10時まで店を開け、また夕方に少し開けるという変則営業にしていました。それでも19年よりむしろ売り上げは上がっていたから驚きました。
もう少し強気に言うと、ワークマンはコロナ時代に合っているんじゃないかと。横に広がるグローバル経済から、外に出ないローカル経済に変わっていき活動範囲が狭まる。狭い商圏に根差して、自然体で経営する。フランチャイズの店長やうちの社員が、残業してまで結果を目標にはしません。あんまりガツガツするのはいけない。私は「頑張る」という言葉が嫌いなんですよ(笑)。
三谷 「ガツガツ」「頑張る」、私、ずっとそうしていますね。衝撃……。
土屋氏 ははは、だってマニュアルに「頑張る」と書けないでしょう。一部のスーパーマンが頑張ると、その仕事は引き継げないからかえって会社の邪魔になる。誰もが力を入れなくてもできるようにしなければならない。
例えば、FC店にとって、一番難しいのは発注です。そこでワークマンはこれを自動化しました。店長はレジを打って品出しするだけでいい。それだけで売り上げが上がっていくというのが理想です。レジの精算も、閉店後にやりません。20時になったらレジを閉めて金庫に入れて5分後に帰りなさいと。だから無理せずに経営できる。この文化はもともとのワークマンにあり、それを知ったときには感激しましたね。
他の店舗で売れているのに、入れていない商品があったら自動的に判明するエクセルベースのシステムも入れています。それがあれば、店舗に足を運ばなくても、パソコンで分かるわけですよ。あとはビデオ会議でもすればOK。だから本部のSV(スーパーバイザー)にも、「そんなに店舗に行くな」と言っています。店長と話すのは10分以内にしろ、と。
三谷 調子がいいんだからもっと足を運べ!工夫しろ!と言いそうなところですが、むしろ余計なことはするな、と。この合理的な考え方が、FCの店長さんが無理せずに経営を続けていける理由なのですね。
土屋氏 FCは、本当に辞めないですね。更新率99%、子供に引き継ぐ店舗が47%もあります。昔は、売れない店が辞めるというケースはあったのですが、最近は、もうかり過ぎてお金ができたからボランティアなどのために辞めようという人がいるくらいです。
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