※日経トレンディ 2020年1月号の記事を再構成

スタートアップを支援する都市づくりをはじめ、先駆的な政策でスマートシティー化を推進する福岡市長の高島宗一郎氏。福岡市が前例のない取り組みを推し進められる理由や、2020年の展望を語ってもらった。

福岡市長 高島宗一郎氏
福岡市長 高島宗一郎氏
1974年生まれ。アナウンサーから、2010年に当時最年少の36歳で福岡市長に就任。現在3期目。14年には国家戦略特区を獲得。スタートアップのけん引役として様々な規制緩和や制度改革を推し進める。著書『福岡市を経営する』(ダイヤモンド社)

ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)を活用して市民生活をより便利にするスマートシティーの実現を目指し、様々な行政改革や実証実験に取り組む福岡市の挑戦が注目されています。

高島宗一郎氏(以下、高島氏) 近年は、ICTをはじめとした技術の進歩によって、様々な「新たな利便」が生まれてきています。スマホ、SNS、シェアリング、自動運転、ドローンなどが分かりやすい例です。ただ、これらの新技術を行政手続きや住民サービス、都市交通などに利用することは、現行の法律や規制ができたときには想定されていませんでした。

 民間企業と同じく、行政も新たな利便を活用して効率を高めていく必要があるのに、規制のクリアが大変だから、事例が無いからということで、一歩踏み出せない自治体が大半です。そこで、福岡市が「最初の事例」をどんどんとつくっていけば、他の都市も「そんなことができるんだ」と分かって追随しやすくなります。日本全体を最速で変えていくには、この方法が一番いいのではないかと考えています。

 スマートシティーの推進に当たって大事なのは、「課題ドリブン」の考え方。スマートシティーはあくまでも、少子高齢化や保健福祉、災害対策といった社会課題を乗り越えるためのソリューションであって、それ自体を目的とするものではありません。例えば、移動が困難な高齢者が増えているという課題を解決したいが、コミュニティーバスでは採算が取れず、運転手も不足していて持続可能性が低い。そこで、自動運転が必要だという話になるわけです。スマートシティーの取り組みに対する地域の納得感を得るには、課題ドリブンであることが重要です。

福岡市がスマートシティーを推し進められる背景は。

高島氏 福岡市は権限が大きい政令指定都市であり、かつ国家戦略特区でもあるので、スタートアップ企業などと組んで新たな技術を導入し、試していきやすいのが強みです。例えば2018年には特区を活用し、全国で初めて、オンラインで医師の診察や薬剤師の服薬指導を受け、家に薬が届くという一気通貫の仕組みが実現しました。これも移動困難者に対応するものですが、こうした課題解決モデルを福岡市が「まずやってみせる」ことによって、他の地域でも展開しやすくなるのです。

 幸いなことに、福岡市には九州大学箱崎キャンパス跡地という、自由に使える広大な土地があります。ここにスマートシティーのモデルをつくる「フクオカ スマートイースト」計画を進めています。

 公共交通の自動運転にしろ、短距離移動を助けるマイクロモビリティーにしろ、ドローン配送にしろ、既存の市街地にあるインフラでは最適な条件での実装がなかなか難しい面があります。大学キャンパスの跡地ですから、そうしたインフラをゼロベースで作り、スマートシティーの街づくりを実践していけます。例えば「自動運転車が走る」ことを前提に、道路にセンサーを埋め込む、センサーと対話できる信号機を設置するといったことも可能です。

 これまで世界中の都市を見てきましたが、個々の技術パーツやプランはあるものの、本当の意味でのスマートシティーを実現している場所はまだどこにも無い。多くの新技術を街づくりに実際にどう落とし込んでいくか、という部分をスマートイーストで色々と試せるのは、福岡市にとって大きなチャンスなのです。スマートシティーを実践してみせて、「ああ、こういうイメージね」というのを世界に示せれば、それはどんな偉い人が言葉で説明するよりも説得力があります。

 このスマートイーストを中心に、シェア型電動キックボードや自動運転バス、ドローン配送、生体センサーによる遠隔モニタリング、健康状態をチェックするトイレなど、幅広い分野で実証実験を既に積み重ねています。これは今後も一段と拡大していきますし、そうした新たな技術やサービスに挑戦するスタートアップ企業や若い経営者を支援する体制も整えています。

社会課題の解決に向けて様々な実証実験に取り組む

 「移動」の課題 

●電動キックボード
●電動キックボード

 「配送」の課題 

●自動配送ロボット
●自動配送ロボット

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