※日経トレンディ 2020年1月号の記事を再構成

テレワークや遠隔教育に利用される分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を生み出したオリィ研究所(東京・港)。最近では、店員が遠隔操作のロボットという前代未聞のカフェを展開するなど、先進的な取り組みを加速させている。分身ロボットは世界をどう変えるのか、吉藤健太朗CEOに聞いた。

オリィ研究所CEO 吉藤健太朗氏
オリィ研究所CEO 吉藤健太朗氏
高等専門学校で人工知能(AI)を、早稲田大学創造理工学部でロボット工学を学ぶ。自身の不登校体験を基に、分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発。事業化のため2012年にオリィ研究所を設立し、CEOに就任した

分身ロボットが接客をする新型カフェ「DAWN ver.β」に多くの人が訪れました。

吉藤健太朗氏(以下、吉藤氏) 移動や腕の稼働が可能なロボット「OriHime-D(オリヒメディー)」や小型のOriHimeを店に置くことで実現したものです。病気や障害を持つ外出困難な人が、自宅や病院からインターネット経由で操作。視線入力装置を使い、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者が目の動きだけで操ることもできます。内蔵カメラで周囲を見たり、マイクとスピーカーを通じて客と会話を楽しんだりと、コミュニケーションも重視しました。2018年に第1弾、19年に第2弾を期間限定で出店。20年には常設店を開く計画です。

OriHime-Dは、身長120センチの移動が可能な分身ロボット
OriHime-Dは、身長120センチの移動が可能な分身ロボット
小型のOriHimeは、移動はできないが、周囲を見たり、会話や手を上げたりと多様な動きが可能
小型のOriHimeは、移動はできないが、周囲を見たり、会話や手を上げたりと多様な動きが可能

そもそもなぜこのような店を?

吉藤氏 障害や病気で外出が困難な人は、外で働くことが難しく、人との出会いも極端に制限されます。その結果、抱えるのが「孤独」です。実は、私も小中学校時代、3年半ほど不登校になりました。1日の大半を布団の中で天井を眺めて過ごし、孤独を強く感じたことがあります。そんな体験もあり、外出困難な人が抱くことの多い孤独を解消したいと考えました。その孤独解消の一つの手段が、分身ロボットカフェだったというわけです。

AIロボットを会話の相手として、孤独を癒やすアプローチもあります。

吉藤氏 そうした方向性も否定はしません。ただし、多くの人には人と話したい、人に必要とされたいという思いが根底にあると考えています。さらに、会話のやり取りだけでは不十分。重要なのは、その場に一緒にいると互いが実感できること、“実在感”があることです。分身ロボットであれば、話している人に顔を向け、会話に合わせて首を縦に振って相づちを打ったり、手を広げて驚いてみせたり、さもそこにいるかのように表現ができます。今回のカフェでの接客など、テレワークで仕事をすることも可能。分身ロボットによって、今まで不可能だった「移動」が疑似的にでき、「対話」に加えて「役割」も得られる。この3要素がそろうことで、孤独が解消されると考えています。

分身ロボットを友人などに託し、“客”として来店する人もいました。将来的には、店員も客も、全員が「分身」といった時代も来るのでは。

吉藤氏 そうですね。ロボットはリアルに降り立つための「場」「入れ物」であり、それがいろいろな場所にあることで、ネットを介して自由に移動できるようになります。そんななかで、店舗はどのような形が最適か、失敗や試行錯誤を繰り返して答えを見つけていくのがこのカフェの本質。客も単にコーヒーを飲みに来るだけでなく、気づいたことや要望をアンケートに残し、店員やエンジニアと共に孤独を解消するための“未来”を一緒につくっているのです。今後も、「公開実験カフェ」「ver.β」の看板は外さず、可能性を追求します。

病院や自宅から遠隔操作
病院や自宅から遠隔操作
19年10月に限定開業したカフェには多数の客が訪れ、会話を楽しんだ
各テーブルに置かれたロボット横の画面に操縦者(パイロット)のプロフィルを表示
各テーブルに置かれたロボット横の画面に操縦者(パイロット)のプロフィルを表示

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