人工クモ糸で有名になったバイオベンチャーのスパイバー(山形県鶴岡市)が、スポーツアパレル大手・ゴールドウインの看板ブランド「ザ・ノース・フェイス」と共同開発したアウトドアジャケット「ムーン・パーカ」。実はその素材はもはや“人工クモ糸”ではないという。何が起きたのか。
2019年12月12日発売、限定50着――。
スポーツアパレル大手のゴールドウインとスパイバーが共同開発したアウトドアジャケット「ムーン・パーカ」がついに発売される。15年にプロトタイプを発表してから4年、延期を経てついに発売されることになった。
ムーン・パーカの画期的な点は、石油などの化石資源に依存せず、糖類やミネラルなどを主原料として微生物の発酵によって作られた「ブリュード・プロテイン(構造タンパク質)」を使用していること。だが、スパイバーといえばクモの糸の人工合成に成功したベンチャー企業というイメージを持っている人が多いだろう(社名もスパイダーとファイバーを掛け合わせたもの)。
同社は代表執行役を務める関山和秀氏が慶応大学在学中に研究をスタートし、博士課程のときに人工クモ糸の合成に成功して07年に起業したのが始まりだ。しかし、今回の発表ではクモ糸という言葉は一切使われず、現時点でその性能はザ・ノース・フェイスのアウトドアジャケットに使用される、ポリエステルやナイロンといった既存素材と同レベルだという。いったい、何が起きたというのか。
「生地さえできれば服ができると思っていた」
重さ当たりのタフネス(強じん性)は鋼鉄の340倍――。同社への期待は、天然クモ糸のずば抜けた機能性を応用した商品がいつ実現するかに集中していた。そんななか、15年にゴールドウインと事業提携契約を締結し、同年にゴールドウインの看板ブランド「ザ・ノース・フェイス」のアウトドアジャケットをベースにしたムーン・パーカのプロトタイプを発表。16年中の発売を目指すとしていた。「生地さえできれば服ができると思っていた」(関山氏)
だが、アウトドアウエアとして実用化するまでには、さまざまな困難が待ち受けていた。その最も大きなハードルとなったのが、天然のクモ糸が水にぬれると数十%収縮する「超収縮」という特性だ。特に雨や雪にさらされることが前提のアウトドアウエアでは致命的。開発を進めていた構造タンパク質素材「QMONOS(クモノス)」はその名の通り、クモ糸由来のタンパク質であるフィブロインをベースとしていたため、超収縮の特性も引き継いでおり、クモ糸としての製品化を諦めざるを得なかった。
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