“ステルスゲーム”「METALGEAR(メタルギア)」で一躍ヒットメーカーとなり、世界中に熱狂的ファンを抱える小島秀夫氏。2019年11月8日、独立後初作品「デス・ストランディング」を公開する。2020年のヒットをつくる人の第4回は、小島氏に、独立した思いと、ゲーム作りの秘訣を聞いた。

小島秀夫氏。コジマプロダクション代表。ゲームクリエーター。1963年東京都生まれ。86年コナミ入社。98年にプレイステーション向けのゲーム「メタルギアソリッド」を開発して大ヒット。ステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開き、世界中で熱狂的なファンを生む
小島秀夫氏。コジマプロダクション代表。ゲームクリエーター。1963年東京都生まれ。86年コナミ入社。98年にプレイステーション向けのゲーム「メタルギアソリッド」を開発して大ヒット。ステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開き、世界中で熱狂的なファンを生む

 15年12月、ゲーム業界に激震が走った。大ヒットゲームシリーズ「メタルギア」を生み出したゲームクリエイターの小島氏がコナミを退社し、独立スタジオを設立すると宣言。ソニー・コンピュータエンタテインメント/SCE(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント/SIE)との新ゲームの契約締結も合わせて発表され、世界中に“潜伏”するコジマファンは熱狂した。

 4年弱の時を経て、その新作ゲーム「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」が19年11月8日、世に出る。世界を自在に歩き回れるオープンワールド形式のゲームで、主人公である運び屋サムになって分断された米国を旅し、指定の場所に物資を輸送。そして、荷物を届けた先で「カイラル通信」と呼ばれる通信網を接続し、人や都市をつなげていく。従来のようにただ戦うのではなく、つながりを取り戻すことがメインの全く新しいジャンルのゲームだ。まさに世界待望の、多くのファンの待ちに待った時が迫っている。

2019年11月8日発売予定のPS4向けソフト「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」。©Sony Interactive Entertainment Inc. Created and developed by KOJIMA PRODUCTIONS.
2019年11月8日発売予定のPS4向けソフト「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」。©Sony Interactive Entertainment Inc. Created and developed by KOJIMA PRODUCTIONS.
人々や都市が分断されている米国が舞台。主人公のサムとなって分断された地域に物資を届け、「カイラル通信」で接続。再び世界をつなげるのが目的だ。©Sony Interactive Entertainment Inc. Created and developed by KOJIMA PRODUCTIONS.
人々や都市が分断されている米国が舞台。主人公のサムとなって分断された地域に物資を届け、「カイラル通信」で接続。再び世界をつなげるのが目的だ。©Sony Interactive Entertainment Inc. Created and developed by KOJIMA PRODUCTIONS.

 「コナミを辞めたときは52歳。限られた残りの時間、とにかく好きなことをしたかった」。小島氏はその一心で飛び出すが、現実は「事務所もない、スタッフもいない、信用も金もない、まさに何もない状態だった」という。大型ハイエンドゲームの業界は、大資本を背景に力を持つ大手メーカーの独壇場。「個人や独立系のプロダクションは小規模なインディーズゲームが主戦場で、過去に成功した者はいない。個人では到底できっこないという声ばかりだった」(小島氏)。だが、それでも小島氏は険しい道を選ぶ。「ファンが僕に求めているのは、インディーズゲームではない」という思いからだ。

 「僕がゲーム業界に入った30年ほど前とは違って、大作と呼ばれるゲームは分業が基本で、全体像を把握している人はあまりいない。外注すると時間がかかるうえ、ゲームエンジンとムービーや音楽がちぐはぐになっている場合すらある。僕は自分で全部をやりたい。だからこそ、最新のテクノロジーを駆使し、僕の意思が直接伝えられる小規模なチームを作る必要があった」(小島氏)。そこで独立し、一人一人スタッフを集めた。

 近頃のゲームの在り方に疑問を感じていたことも、独立を推し進めた理由だ。「テクノロジーは急速に進化しているのに、ゲーム自体はあまり変わっていない」と小島氏は言う。「家庭用ゲーム機は当初8ビットからスタートし、今や映画並みのクオリティーを持つ。さらに、オンラインで遠く離れた人とも共闘もしくは対戦できるのは、驚くべき進化だ。だが、結局は銃で撃ち合ったり、剣で倒したりといったことが主軸になっていることは変わらない」(小島氏)。そこで、全く新しいゲーム性を持った作品を作ろうと考えた。

「つながり」だけを頼りに船出を強行

 たどり着いたコンセプトが、「つながり」だ。「独立をした際に、本当に何もなくなった。けれども新しいことをやろうとした際に、一緒にやりたいと言ってくれる人、応援してくれる人がいて、人とのつながりだけは残っていることを痛感した」(小島氏)。「ゲームを一緒に作ってきたクリエイターやアーティスト、過去の作品に出演した俳優など、周りを見わたせば力強い仲間がおり、このつながりをテーマに、そしてこれを頼りにゲームを作っていこう」。小島氏はそう決意したのだ。

 その思いが、大手をも動かした。独立にあたって、「何をやりたいと思っているのか?」とSCEのアンドリュー・ハウス氏に問われた際。小島氏は、文字に起こせば僅か数行にしかならないゲームのアイデアをプレゼン。当然、企画書も何もなかった。それに対してハウス氏は、「OK!やろう!!」と一言。「小島が挑戦することだから、面白いに決まっている」というハウス氏の決断を目の当たりにした小島氏は、「改めてつながりの重要さを感じた」という。

 「つながりという概念の全く新しいゲームを作るためには、新しいエンジンも必要」。小島は新作の心臓部とも言える「ゲームエンジン」を探し始める。そんな折、オランダ・アムステルダムのゲリラゲームズのオフィスを訪問すると、突如小さな箱を渡される。開けてみると、そこにはソースコードが入ったチップが……。「契約もしていない状況で、10年もの歳月をかけて作ったという苦労の結晶(ソースコード)を託してくれたことに驚き、感動した」(小島氏)。その思いを受け、同社のエンジンの使用を決意した。

新作に出演する、主人公サム役を務める人気俳優のノーマン・リーダス(左)や映画監督のギレルモ・デル・トロ(右)も小島氏に魅了された人間。人気アーティストの三浦大和も、過去に小島氏と対談したことがきっかけとなり、新作ではカメオ出演している。 ©Sony Interactive Entertainment Inc. Created and developed by KOJIMA PRODUCTIONS.
新作に出演する、主人公サム役を務める人気俳優のノーマン・リーダス(左)や映画監督のギレルモ・デル・トロ(右)も小島氏に魅了された人間。人気アーティストの三浦大和も、過去に小島氏と対談したことがきっかけとなり、新作ではカメオ出演している。 ©Sony Interactive Entertainment Inc. Created and developed by KOJIMA PRODUCTIONS.
 

分断化する世界に疑問を投げかける

 テーマづくりで重視しているのが、「日々のささいとも思える感動や疑問といった刺激の蓄積」(小島氏)だ。「作品のアイデアは、空気中のチリや水滴が集まり、雨になって降ってくるのと一緒で、刺激を蓄積した状態で何かのきっかけが加わった瞬間に落ちてくる」と語る。そのため小島氏は、日々多様なコンテンツにジャンルを問わず触れ続ける。本や映画、音楽などを楽しむだけでなく、毎週のように美術館や博物館にも足を運んでいる。

 つながりというテーマを思いついたトリガーは、自身の独立時の苦境だが、それ以前に日々の蓄積のなかで「現代のつながりの形に疑問を持っていた」(小島氏)ことが根底にある。「テクノロジーが発達し、ネットワークは世界中に拡大。地球の裏側の人ともリアルタイムに話ができるようになった。それもインタラクティブに。しかし、ネット空間では、中傷や攻撃がはびこっていて、人間同士、互いへの思いやりがなくなってきている」と小島氏は日ごろから感じていたという。「EUにおける英国離脱問題や、米国のトランプ大統領の『メキシコ国境に壁を作る』といった発言など、世界はつながってはいるものの、分断化が進行している。だが、本来人間は群れて暮らす生き物。そこから社会やルールが生まれ、互いを守ってきたからこそ繁栄してきた」。小島氏の考えるつながりとは、「『個』が立ちながらも共生できる」、そんな温かい未来だ。

 つながりをゲームに組み込むにあたって、小島氏が目指したのが、「『棒』ではなく、『なわ』の役割を持たせる」こと。

 その言葉の原点は、小島が高校生時代に読んだ本に遡る。安部公房の短編小説「なわ」。「棒もなわ(縄)も人類の歴史のなかで最初期に考え出された道具だが、棒は悪いものを遠ざけるためで、縄は善いものを引き寄せるためのものと定義されていた。つながりだけでものづくりをしようと考えたとき、このなわの概念を改めてかみ締めた」と小島氏は語る。遠ざけるためではなく、何かを引き寄せるために道具を使う――。現代の複雑で殺伐としたコミュニケーション問題を顧みるきっかけになると期待したのだ。

「SNSは否定しない。だが、弊害もある」

 もう一つ、小島氏が重視したことがある。「今とは違う、ネットの新しい使い方を見せたい」ということだ。

 「僕自身もSNSは活用している。好きなクリエーターを見つけたらすぐにSNSで感想などを発信し、距離を超えてつながれるのは今の時代ならでは。だからSNSを否定するつもりはない。ただ、誰もが直接つながれることの弊害もある」と小島氏。そこで考えたのが、「間接的なコミュニケーション」だ。

 デス・ストランディングは基本ソロプレイであり、だだっ広い草原や荒野をたった1人で走っていく。いくら進んでも、そこに残るのは自分の足跡のみ。「おーい!」と叫んでも反応はない。だが、あるところまでゲームを進めると、他のプレ―ヤーの存在を感じられるようになる。例えば、他のプレーヤーが休憩していた場所に痕跡があったり、他人の足跡が見えたりする。他のプレーヤーが残していった物資を利用したり、その反対に次に来る人のために道具を残していったりすることも可能だ。「届くのにタイムラグが大きい手紙では、互いに書いている、もしくは読んでいる相手の“その時”を想像するため、自然と思いやりが生まれる。このリアルタイムではない、直接見えない相手との間接的なコミュニケーションを、最先端のテクノロジーで再現した」(小島氏)。

 思いやりを醸成する仕組みも導入した。それが「いいね」の機能だ。例えば、ゲーム内で自由に置ける梯子(はしご)。谷を渡ったり、壁を登ったりと活躍するが、置いておいた梯子は、実は世界中のプレーヤーからも見え、それを使った他のユーザーは「いいね」を押して感謝を伝えられる。「使ってもらった方も役立ったことが実感でき、次第に誰かを思って行動するようになる」と、小島氏は狙いを語る。

人と人をつなぎ、アメリカ大陸を東から西へ向かう。梯子などの設置したアイテムは他のユーザーからも見えるようになる仕組み。「いいね」で感謝を伝えることもできる。メインの荷物運びを主軸にしたストーリーの他に、プレーヤー間での荷物運びミッションなども用意しており、長く遊べる。 ©Sony Interactive Entertainment Inc. Created and developed by KOJIMA PRODUCTIONS.
人と人をつなぎ、アメリカ大陸を東から西へ向かう。梯子などの設置したアイテムは他のユーザーからも見えるようになる仕組み。「いいね」で感謝を伝えることもできる。メインの荷物運びを主軸にしたストーリーの他に、プレーヤー間での荷物運びミッションなども用意しており、長く遊べる。 ©Sony Interactive Entertainment Inc. Created and developed by KOJIMA PRODUCTIONS.

AIから逃げ続け、新しいことを常に追う

 デス・ストランディングで新しいゲームの形、つながりの形を提案した小島氏は、既に次のゲームの制作に動き始めている。大好きだという映画の製作にも熱意を見せる。さらに、「2025年の大阪万博でアトラクションやパビリオンなど、何か新しいことをやりたい」とも笑う。「AI(人工知能)の進化は著しく、クリエイターはAIが追いかけてくるのをひたすら逃げるしかない。同じことをやっていても意味がない。だが、その一方で、技術の進化でクリエイターは1人でも作品を生み出しやすくなっている。クリエイター受難の時代といわれるが、そんなことはない。僕は今56歳だけれど、今の20代の方が楽しいと思う」(小島氏)。この好奇心と創作熱の強さこそ、小島氏がヒットクリエイターであり続ける証明だろう。

小島は、小説や映画など様々なコンテンツに触れ合うのが趣味。美術展などにも足しげく通う
小島は、小説や映画など様々なコンテンツに触れ合うのが趣味。美術展などにも足しげく通う

(写真/竹井俊晴、写真提供/ソニー・インタラクティブエンタテインメント)