「つながり」だけを頼りに船出を強行

 たどり着いたコンセプトが、「つながり」だ。「独立をした際に、本当に何もなくなった。けれども新しいことをやろうとした際に、一緒にやりたいと言ってくれる人、応援してくれる人がいて、人とのつながりだけは残っていることを痛感した」(小島氏)。「ゲームを一緒に作ってきたクリエイターやアーティスト、過去の作品に出演した俳優など、周りを見わたせば力強い仲間がおり、このつながりをテーマに、そしてこれを頼りにゲームを作っていこう」。小島氏はそう決意したのだ。

 その思いが、大手をも動かした。独立にあたって、「何をやりたいと思っているのか?」とSCEのアンドリュー・ハウス氏に問われた際。小島氏は、文字に起こせば僅か数行にしかならないゲームのアイデアをプレゼン。当然、企画書も何もなかった。それに対してハウス氏は、「OK!やろう!!」と一言。「小島が挑戦することだから、面白いに決まっている」というハウス氏の決断を目の当たりにした小島氏は、「改めてつながりの重要さを感じた」という。

 「つながりという概念の全く新しいゲームを作るためには、新しいエンジンも必要」。小島は新作の心臓部とも言える「ゲームエンジン」を探し始める。そんな折、オランダ・アムステルダムのゲリラゲームズのオフィスを訪問すると、突如小さな箱を渡される。開けてみると、そこにはソースコードが入ったチップが……。「契約もしていない状況で、10年もの歳月をかけて作ったという苦労の結晶(ソースコード)を託してくれたことに驚き、感動した」(小島氏)。その思いを受け、同社のエンジンの使用を決意した。

新作に出演する、主人公サム役を務める人気俳優のノーマン・リーダス(左)や映画監督のギレルモ・デル・トロ(右)も小島氏に魅了された人間。人気アーティストの三浦大和も、過去に小島氏と対談したことがきっかけとなり、新作ではカメオ出演している。 ©Sony Interactive Entertainment Inc. Created and developed by KOJIMA PRODUCTIONS.
新作に出演する、主人公サム役を務める人気俳優のノーマン・リーダス(左)や映画監督のギレルモ・デル・トロ(右)も小島氏に魅了された人間。人気アーティストの三浦大和も、過去に小島氏と対談したことがきっかけとなり、新作ではカメオ出演している。 ©Sony Interactive Entertainment Inc. Created and developed by KOJIMA PRODUCTIONS.
 

分断化する世界に疑問を投げかける

 テーマづくりで重視しているのが、「日々のささいとも思える感動や疑問といった刺激の蓄積」(小島氏)だ。「作品のアイデアは、空気中のチリや水滴が集まり、雨になって降ってくるのと一緒で、刺激を蓄積した状態で何かのきっかけが加わった瞬間に落ちてくる」と語る。そのため小島氏は、日々多様なコンテンツにジャンルを問わず触れ続ける。本や映画、音楽などを楽しむだけでなく、毎週のように美術館や博物館にも足を運んでいる。

 つながりというテーマを思いついたトリガーは、自身の独立時の苦境だが、それ以前に日々の蓄積のなかで「現代のつながりの形に疑問を持っていた」(小島氏)ことが根底にある。「テクノロジーが発達し、ネットワークは世界中に拡大。地球の裏側の人ともリアルタイムに話ができるようになった。それもインタラクティブに。しかし、ネット空間では、中傷や攻撃がはびこっていて、人間同士、互いへの思いやりがなくなってきている」と小島氏は日ごろから感じていたという。「EUにおける英国離脱問題や、米国のトランプ大統領の『メキシコ国境に壁を作る』といった発言など、世界はつながってはいるものの、分断化が進行している。だが、本来人間は群れて暮らす生き物。そこから社会やルールが生まれ、互いを守ってきたからこそ繁栄してきた」。小島氏の考えるつながりとは、「『個』が立ちながらも共生できる」、そんな温かい未来だ。

 つながりをゲームに組み込むにあたって、小島氏が目指したのが、「『棒』ではなく、『なわ』の役割を持たせる」こと。

 その言葉の原点は、小島が高校生時代に読んだ本に遡る。安部公房の短編小説「なわ」。「棒もなわ(縄)も人類の歴史のなかで最初期に考え出された道具だが、棒は悪いものを遠ざけるためで、縄は善いものを引き寄せるためのものと定義されていた。つながりだけでものづくりをしようと考えたとき、このなわの概念を改めてかみ締めた」と小島氏は語る。遠ざけるためではなく、何かを引き寄せるために道具を使う――。現代の複雑で殺伐としたコミュニケーション問題を顧みるきっかけになると期待したのだ。