元AKB48のこじはること、小嶋陽菜氏が手掛けるアパレルD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランド「Her lip to」が人気を集めている。ブランドオーナーとしてECサイトの売り上げを管理し、SNSで顧客に経験則に基づく提案をする。小嶋氏のこだわりを反映した商品作りが顧客の共感を呼んでいる。

小嶋陽菜氏 2005年にアイドルグループAKB48に第1期生として加入し、17年に卒業。現在はモデル・タレントと多方面にわたり活躍中。18年6月にプロデュースブランド「Her lip to」をスタート
小嶋陽菜氏 2005年にアイドルグループAKB48に第1期生として加入し、17年に卒業。現在はモデル・タレントと多方面にわたり活躍中。18年6月にプロデュースブランド「Her lip to」をスタート

 「人気商品ともなれば、発売直前には “1万人待ち“。発売後は1分で完売することもある」

 小嶋氏はそう明かす。Her lip toは自社ECサイトのみで商品を販売する。その販売手法も特徴的だ。新商品の発売日時を、事前にECサイトやSNSを通じて告知する。冒頭の1万人というのは、発売開始直前の商品ページのアクセス人数のこと。この1万人が一斉に商品をカートに入れるため、購入できない人が続出する。

 「中には(プログラムを組んで)機械的に購入する人もいる」(小嶋氏)。人気ブランドゆえの問題に頭を悩ませているという。2018年6月のブランド開始時は発売間際のアクセス数は1000人程度だったというから、1年で10倍に増加したことになる。その人気の秘密は、SNSを活用したコミュニケーションにある。

 小嶋氏はTwitterのアカウントが310万人、Instagramは240万人超のフォロワーを抱えるなど、元からファンの土台ができている。この土台を軸に、フォロワーと自分の好きな洋服を共有するブランド作りは、特集第1回で提示した「インフルエンサー型D2C」と呼べるだろう(関連記事「新世代デジタルブランド「D2C」の正体 日本でも市場が急拡大」)。SNSを活用した、顧客と共感し合えるクローズドなコミュニティー戦略が人気につながっている。

Her lip toは事前に商品の販売日時を告知する。商品によっては1分で完売することもあるという
Her lip toは事前に商品の販売日時を告知する。商品によっては1分で完売することもあるという

 その手法を説明する前に、小嶋氏がなぜD2Cブランドを立ち上げるに至ったかを説明しよう。小嶋氏といえば、ご存じアイドルグループAKB48の元メンバーだ。デビューから11年在籍した同グループを17年4月に卒業した。その小嶋氏が卒業後に、D2Cのアパレルブランドを立ち上げようと考えたのは、大勢の人の前に立ち続けたことの反動だった。

 人気アイドルグループの人気メンバーとして活動し、SNSでは多数のフォロワーを抱える。小嶋氏のアカウント自身が、マスメディアとも言えるほどの影響力を持った。その結果、「自分の気持ちがちゃんと(意図した通りに)伝わらないことも多くなった」(小嶋氏)。

アプリを開発するも、途中で方向転換

 そこで、アイドル卒業を機に「もっと共感しあえる、クローズなコミュニティーを作りたいと考えた」(小嶋氏)のが、アパレルブランドの立ち上げを目指すきっかけとなった。とはいえ、最初から、洋服を作ろうと考えたわけではない。当初は、自分自身のライフスタイルや好きなことについて共感しあえる、クローズドなコミュニティー作りを目指した。プラットフォームはスマートフォンアプリだ。

 会員制のアプリで、自身の好きなファッションやコスメを紹介する。ところが、この構想はとん挫する。実際にアプリまで開発したものの、「制作コストがかかるうえに、運用には専門のスタッフが必要で、自分の手では(アプリの中身を)動かせない。これでは長続きしない」(小嶋氏)と判断した。そこで、アプリを活用したコミュニティー作りは一度断念。SNSのように直接自分の手を動かせる範囲でしか、ファンに満足のいくものを届けられない。そう考え、たどり着いたのがアパレルブランドだった。

こじはる自身でECの売り上げとSNSの相関を分析

 Her lip toは小嶋氏自身がデザインに携わり、商品のモデルになる。ブランドのSNSアカウントを運用し、SNSの投稿がECサイトの商品売り上げにどう影響したかを管理画面を通じて目を通す。文字通りのブランドオーナーだ。「今は8~9割の時間をブランド運営に割いている」(小嶋氏)。

 ブランドコンセプトは「今着たい服」。自身が本当に着たいと思える商品だけを作り、それに共感してくれるコミュニティーの中で販売する。そんなブランド作りを目指した。

 販路にネットを選んだのは自然な流れだ。「SNSが浸透して、ネット上で新しい可愛いものを見つけたい人が増えている。そのなかでパッと目についたものを買うのは必然的になっている」(小嶋氏)。小嶋氏自身も、そういった購買行動が当たり前になっているという。多数のフォロワーを抱えるなど得意とするSNSと、見つけた商品をすぐ買えるECの組み合わせは当然の選択だった。自身としても初めてのブランド運営なうえ、当初クローズなコミュニティーでの販売を計画していたことから、なるべく小規模で始められる場としても、ECサイトはうってつけだった。活用したのは無料でECサイトを作れるBASE(東京・港)だ。

 自分が着たいと思えるこだわった商品作りをするには、なるべく資金を商品作りに当てたいという思いもあった。「リアル店舗を運営するコストをなくして、その分、商品の品質を上げたい」と小嶋氏は考えた。

 というのも、過去に自身がネット通販で届いた商品の封を開けた瞬間に、想像していた商品と異なり肩を落とした経験を持つからだ。商品を実際に手に取れないネット通販ゆえに、なおさら消費者にとって購入の不安は大きい。商品が届き着用するまで、一貫して楽しめる体験を提供するうえでも、商品の品質は妥協できなかった。

経験に基づく提案が付加価値になる

 マーケティングは主にTwitterとInstagramが中心だ。自身のアカウントとブランドのアカウントを組み合わせている。自身のInstagramのアカウントはライフスタイルに共感してもらうため、宣伝色を出さないようにあくまで私生活の中での着用写真の投稿にとどめている。

小嶋氏のTwitterアカウントはフォロワー数が310万人を超える
小嶋氏のTwitterアカウントはフォロワー数が310万人を超える

 Instagramのブランド公式アカウントや、自身のTwitterアカウントではモデルや芸能活動を通じて身に付けた知識を活用したコミュニケーションで、商品に付加価値を付けて提案する。「私自身は着たいと思う服を選んでいる一方、(SNSを通じて)世の中の女性から想像以上に『モテるための服を教えてほしい』という声をいただくことが多くて驚いた」と小嶋氏は言う。そこで、顧客層が他人から見られたい理想像に合わせた着こなしをSNSで提案している。それが、「彼氏に褒められた」といった実感につながり、ブランド価値の向上につながっている。

 「ニットワンピースが好きで、よく作る。他のブランドではあまり売れないと言われたものの、Her lip toでは人気商品になっている」(小嶋氏)のは、小嶋氏の提案が付加価値の1つとなっているからだろう。小嶋氏の考え方に共感する層を大切にすることで、流行りとは異なるヒット商品が生まれている。

 また、モデルが小嶋氏では着用した姿を想像しにくいという声に応え、Her lip toの着用写真をInstagramのストーリーズに投稿するためのテンプレートを用意。ブランドのInstagramアカウントで配布している。そのテンプレートを使って投稿してくれた一般消費者のストーリーズを、ブランドのアカウントのストーリーズに転載して、フォロワーに紹介する。そうして、さまざまな顧客の着用写真を共有することで、着用した姿をイメージしやすくするといった工夫もしている。

着用画像を共有するテンプレートを提供し、ブランドのアカウントで顧客の投稿を共有することで、着用した姿をイメージしやすくする
着用画像を共有するテンプレートを提供し、ブランドのアカウントで顧客の投稿を共有することで、着用した姿をイメージしやすくする

 コミュニケーションでは顧客に寄り添う一方で、商品については顧客の声を聞き過ぎないように気を付けている。というのも、顧客の要望に寄り過ぎて、商品から小嶋氏ならでは感が薄れると、結果的にブランド価値を損なうからだ。Her lip toはドレッシーで、ロング丈の洋服が多い。そのため、SNS上には「自転車に乗れない」といった、実生活に根付いた悩みが投稿されることもある。そういう場合には「リゾートに着ていくと素敵に見える」という風に商品コンセプトに基づいて提案をすると、きちんと共感を得られるという。

 デジタルを活用することで、販売やマーケティングにかかるコストを圧縮し、商品作りに生かす。Her lip toのブランド設計は極めてD2C的だ。次の課題はコミュニティー作り。SNSを中心に緩いコミュニティーは形成されているが、当初の方針通り、よりクローズドなコミュニティー作りを検討中。会員だけが来場できるイベントや、展示会に参加できる権利などが得られる、優良顧客向けの月額制オンラインサロンのようなイメージだ。

 「毎日、(コミュニティーの)最適な形を議論しては、白紙に戻している」と小嶋氏は悩みを打ち明ける。「飽きない人生を歩みたい」ことがテーマの小嶋氏。顧客も飽きさせないための試行錯誤が続く。

(写真/山田愼二)