こじはる自身でECの売り上げとSNSの相関を分析

 Her lip toは小嶋氏自身がデザインに携わり、商品のモデルになる。ブランドのSNSアカウントを運用し、SNSの投稿がECサイトの商品売り上げにどう影響したかを管理画面を通じて目を通す。文字通りのブランドオーナーだ。「今は8~9割の時間をブランド運営に割いている」(小嶋氏)。

 ブランドコンセプトは「今着たい服」。自身が本当に着たいと思える商品だけを作り、それに共感してくれるコミュニティーの中で販売する。そんなブランド作りを目指した。

 販路にネットを選んだのは自然な流れだ。「SNSが浸透して、ネット上で新しい可愛いものを見つけたい人が増えている。そのなかでパッと目についたものを買うのは必然的になっている」(小嶋氏)。小嶋氏自身も、そういった購買行動が当たり前になっているという。多数のフォロワーを抱えるなど得意とするSNSと、見つけた商品をすぐ買えるECの組み合わせは当然の選択だった。自身としても初めてのブランド運営なうえ、当初クローズなコミュニティーでの販売を計画していたことから、なるべく小規模で始められる場としても、ECサイトはうってつけだった。活用したのは無料でECサイトを作れるBASE(東京・港)だ。

 自分が着たいと思えるこだわった商品作りをするには、なるべく資金を商品作りに当てたいという思いもあった。「リアル店舗を運営するコストをなくして、その分、商品の品質を上げたい」と小嶋氏は考えた。

 というのも、過去に自身がネット通販で届いた商品の封を開けた瞬間に、想像していた商品と異なり肩を落とした経験を持つからだ。商品を実際に手に取れないネット通販ゆえに、なおさら消費者にとって購入の不安は大きい。商品が届き着用するまで、一貫して楽しめる体験を提供するうえでも、商品の品質は妥協できなかった。

経験に基づく提案が付加価値になる

 マーケティングは主にTwitterとInstagramが中心だ。自身のアカウントとブランドのアカウントを組み合わせている。自身のInstagramのアカウントはライフスタイルに共感してもらうため、宣伝色を出さないようにあくまで私生活の中での着用写真の投稿にとどめている。

小嶋氏のTwitterアカウントはフォロワー数が310万人を超える
小嶋氏のTwitterアカウントはフォロワー数が310万人を超える

 Instagramのブランド公式アカウントや、自身のTwitterアカウントではモデルや芸能活動を通じて身に付けた知識を活用したコミュニケーションで、商品に付加価値を付けて提案する。「私自身は着たいと思う服を選んでいる一方、(SNSを通じて)世の中の女性から想像以上に『モテるための服を教えてほしい』という声をいただくことが多くて驚いた」と小嶋氏は言う。そこで、顧客層が他人から見られたい理想像に合わせた着こなしをSNSで提案している。それが、「彼氏に褒められた」といった実感につながり、ブランド価値の向上につながっている。

 「ニットワンピースが好きで、よく作る。他のブランドではあまり売れないと言われたものの、Her lip toでは人気商品になっている」(小嶋氏)のは、小嶋氏の提案が付加価値の1つとなっているからだろう。小嶋氏の考え方に共感する層を大切にすることで、流行りとは異なるヒット商品が生まれている。

 また、モデルが小嶋氏では着用した姿を想像しにくいという声に応え、Her lip toの着用写真をInstagramのストーリーズに投稿するためのテンプレートを用意。ブランドのInstagramアカウントで配布している。そのテンプレートを使って投稿してくれた一般消費者のストーリーズを、ブランドのアカウントのストーリーズに転載して、フォロワーに紹介する。そうして、さまざまな顧客の着用写真を共有することで、着用した姿をイメージしやすくするといった工夫もしている。

着用画像を共有するテンプレートを提供し、ブランドのアカウントで顧客の投稿を共有することで、着用した姿をイメージしやすくする
着用画像を共有するテンプレートを提供し、ブランドのアカウントで顧客の投稿を共有することで、着用した姿をイメージしやすくする

 コミュニケーションでは顧客に寄り添う一方で、商品については顧客の声を聞き過ぎないように気を付けている。というのも、顧客の要望に寄り過ぎて、商品から小嶋氏ならでは感が薄れると、結果的にブランド価値を損なうからだ。Her lip toはドレッシーで、ロング丈の洋服が多い。そのため、SNS上には「自転車に乗れない」といった、実生活に根付いた悩みが投稿されることもある。そういう場合には「リゾートに着ていくと素敵に見える」という風に商品コンセプトに基づいて提案をすると、きちんと共感を得られるという。

 デジタルを活用することで、販売やマーケティングにかかるコストを圧縮し、商品作りに生かす。Her lip toのブランド設計は極めてD2C的だ。次の課題はコミュニティー作り。SNSを中心に緩いコミュニティーは形成されているが、当初の方針通り、よりクローズドなコミュニティー作りを検討中。会員だけが来場できるイベントや、展示会に参加できる権利などが得られる、優良顧客向けの月額制オンラインサロンのようなイメージだ。

 「毎日、(コミュニティーの)最適な形を議論しては、白紙に戻している」と小嶋氏は悩みを打ち明ける。「飽きない人生を歩みたい」ことがテーマの小嶋氏。顧客も飽きさせないための試行錯誤が続く。

(写真/山田愼二)