利用機会の多いファストフード。増税後は店内飲食と持ち帰りで税率が異なるため、混乱が予想される業界だ。日本マクドナルド、日本ケンタッキー・フライド・チキン、モス・バーガーの大手ファストフードチェーンの対応は分かれた。消費増税の主要小売業への対応について、5回連載で掲載する。

日本ケンタッキー・フライド・チキンは、「オリジナルチキン」の価格据え置きをいち早く決めた
日本ケンタッキー・フライド・チキンは、「オリジナルチキン」の価格据え置きをいち早く決めた

人気商品据え置きで混乱防ぐマック

 日本マクドナルドは2019年9月10日、店内とドライブスルーを含む持ち帰りを税込み同一価格にすると発表した。併せて増税後の対応についてテレビCMなどで告知し、周知に努めているため認識している人も多いだろう。

 「マクドナルド」では、バリューセットや100円コーヒー、「ビッグマック」など7割の商品を増税前の税込み価格に据え置く。税別価格を引き下げて調整するため、10%が課税される店内飲食では実質値下げとなる。一方、「ハンバーガー」や「チーズバーガー」「てりやきマックバーガー」「ポテトM」など3割の商品では、税込み価格を10円引き上げる。つまりこちらは税別価格も引き上げることになる。価格設定は10円単位を維持し、表示も税込み価格を継続するなど、客や店舗でのオペレーションに混乱を来さないようにするという。

マクドナルドは商品のうち3割は10円の値上げ、7割は増税前価格に据え置く。レシートの表示は税込み価格(合計金額)は同じでも、店内飲食と持ち帰りで「内消費税」の金額が異なる。軽減税率適用商品の場合、商品単価の横に「*」マークが付いている
マクドナルドは商品のうち3割は10円の値上げ、7割は増税前価格に据え置く。レシートの表示は税込み価格(合計金額)は同じでも、店内飲食と持ち帰りで「内消費税」の金額が異なる。軽減税率適用商品の場合、商品単価の横に「*」マークが付いている

増税をブランディングに生かすKFC

 日本ケンタッキー・フライド・チキン(日本KFC)は主要3チェーンの中で、いち早く店内飲食と持ち帰りの税込み同一価格を発表していた。同社が運営する「ケンタッキーフライドチキン(KFC)」は、「今日、ケンタッキーにしない?」をキャッチフレーズに日常使いの訴求に力を入れている(関連記事「高畑充希の食べっぷりで、普段も行きたいを想起させた日本KFC」)。そんなタイミングだからこそ、価格が異なることで来店ハードルが上がるのを避けたいとの思いがある。

 「リピートや利用頻度を高めてもらうためには、買いやすさが重要。店内飲食もさらに強化したいなかで、税率を理由に持ち帰りを選択するという事態も避けたい。従業員が分かりやすいオペレーションにする配慮もある」と、日本KFC広報部長営業戦略本部ブランド戦略担当の新井晶子氏は語る。

日本KFC広報部長営業戦略本部ブランド戦略担当の新井晶子氏は「オリジナルチキンは250円で据え置き、基幹商品であることを改めてアピールする」と話す
日本KFC広報部長営業戦略本部ブランド戦略担当の新井晶子氏は「オリジナルチキンは250円で据え置き、基幹商品であることを改めてアピールする」と話す

 同社は増税を機に主力商品の「オリジナルチキン」をアピールするため、税込み価格を現状の250円に据え置く。併せてオリジナルチキン関連パックについても価格を変更せず、現状維持を表明。さらに「とりの日パック」など値ごろ感で勝負するメニューやキッズメニュー、サンド系の主力定番メニューも税込み価格を据え置いた。従ってこれらの商品に関しては、店内飲食の場合、実質値下げとなる。「(軽減税率は)オリジナルチキンがKFCで一番大切な基幹商品だということを、改めて伝えられる好機でもある」(新井氏)と、増税を逆手にブランディング強化を図ろうというしたたかな一面も見せる。

 ファストフードは「若者が顧客にならないと停滞する業界」(日本KFCマーケティング部長の中嶋祐子氏)だけに、わずかであっても値上げには慎重にならざるを得ない。メインメニューの店内飲食価格を据え置くことで、顧客の足が遠のくのを防ごうというのはマクドナルドと共通だ。こちらも店頭の価格表示は税込みで、価格設定は10円単位。

 もちろん、一部の商品については10~20円の税込み価格の値上げを実施する。対象となるのは「チキンフィレサンドセット」「和風チキンカツサンドセット」「ポテト(S)」などだ。

持ち帰り増加を見越したモスバーガーのユニーク施策

 3つのチェーンの中で唯一、店内飲食と持ち帰りで“本体”を同一価格に設定したのが「モスバーガー」を経営するモスフードサービスだ。つまり店内飲食の場合は本体価格の10%、持ち帰りなら同8%の消費税がかかるため、税込み価格が異なる。単純に考えれば、上記2社に対して不利な印象を受ける。このような選択をした理由として、同社は以下のように説明する。

 「本体価格を同一価格にしない場合、値上げや値下げなど価格改定が必要になる。値下げで増税分を吸収できる環境ではないため、公明正大に対応するには本体価格を同一にすることが得策と考えた。現状でも5割を占める持ち帰りの優位性を活用する、というのも要因」

 増税の影響による店内飲食需要の落ち込みについては、「可能性は否定できないが、店内飲食による居心地の良さやヒューマンサービスの提供により、お客さま満足度の向上を図っていきたい」と話す。

 モスバーガーで注目すべきは、持ち帰り需要の増加を見越してハンバーガーのバンズを2年ぶりにリニューアルしたこと。保水性を上げ、持ち帰りで時間がたってもパサつかず、しっとりとした食感が長持ちするように改良した。さらに重さを平均約3%増量し、食べ応えも向上させた。「バンズリニューアルは持ち帰り需要が増えることを見据えての対応だけではなく、増量による商品価値向上も図っている」(同社)と言う。

 消費者は増税で自分が支払う金額にシビアになりがちだ。企業努力で主力商品の価格を据え置き、増税の影響を吸収しつつチェーンとしての存在感をアピールするのも一手。また商品力自体をアップすることで、税込み価格上昇に伴う不満感を解消する手法もありだろう。どちらも「顧客ファースト」を旗印にした攻めの企業姿勢であることに変わりはない。

モスバーガーは店内のおもてなしもさらに注力するという
モスバーガーは店内のおもてなしもさらに注力するという

節約疲れでいずれ客足は戻る

 軽減税率導入による外食産業への影響について、経済評論家の平野和之氏はこう分析する。

 「駆け込み需要は現状ないため、その反動は少ないだろう。キャッシュレス決済ならコンビニは2%、中小の零細店舗は5%のポイントバックがあるため、低所得者にとっては実質価格は据え置きとなる。一時的には持ち帰りに需要が偏り、店内飲食は相対的に減るだろうが、節約疲れが起きていずれ客足は戻る。外食産業自体は、訪日客の消費が増えたことや物価上昇によって市場規模は拡大している。シニアの単身世帯や共働き世帯の消費が多いため、ヘルシー志向のメニューを充実できる店に分がある」

(撮影/酒井康治、画像提供/日本マクドナルド、モスフードサービス)

■修正履歴
記事掲載当初、日本KFC新井氏の肩書とお名前に誤りがありました。 現在は修正済みです。[2019/09/27 10:45]

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