自動車メーカーやスタートアップなどが開発を競っている自動運転技術。無人運転が最終目標だが、そのためには故障などを想定した遠隔監視が欠かせない。クルマや、その周囲の状況をリアルタイムにチェックし続けるためには、高速大容量・低遅延という特徴を持つ5Gが有用だ。
2019年6月、ソフトバンクは新東名高速道路で、3台のトラックを使った隊列自動運転の実証実験に成功した。1台目はドライバーが運転しているが、続く2台目、3台目は、前のトラックと一定の車間距離を保ちながら、最高時速70キロメートルの自動運転で走行した。「トラック同士を5G通信でつなぎ、情報を伝送することで、安定的な車間距離の維持ができた」とソフトバンク先端技術開発本部の湧川隆次本部長は話す。この隊列自動走行が実用化されれば、3台のトラックを1人のドライバーで走らせることができ、社会問題化しているトラックドライバー不足の解決につながる。
センサーやレーダー、カメラを使って前車との車間距離を一定に保ち、車線の中央を走るようステアリングを自動で調整する「レベル2」の自動運転技術は、すでに市販車にも搭載されている。しかし今回の隊列走行は、単に前のトラックの動きを捕捉して追従したわけではない。5Gで視覚を拡張しているのだ
5Gでやり取りする情報は2つ。まず、ドライバーが乗った一台目のトラックから、アクセルやブレーキ、ハンドル操作情報を送信する。この情報に基づいて後方の2台が自動走行する。一方、後方のトラックからは、車両後方や左右の映像が先頭車のドライバーへ伝送される。3台のトラックが連なって走った場合、先頭から後方の車両を肉眼で確認することは難しい。だからこそ、低遅延の5Gで映像をリアルタイムで伝えることが重要になる。
5Gによる視覚の拡張の可能性は、これだけにとどまらない。湧川氏によると、「クルマ同士だけでなく、信号機などから周囲の交通状況を受け取ることも可能だ」という。交差点や高速道路の合流地点など、見通しの悪い場所では、周囲に取り付けられたカメラの映像から、肉眼では確認が難しい走行中のクルマの情報が得られるようになる。駐車車両の陰に隠れて見えない、飛び出してくる歩行者や自転車の姿も捉えられるだろう。
いずれもカギとなるのは、5Gの特徴の一つである低遅延。時速70キロメートルで走行する場合、トラックはたった1秒で約20メートルも動く。少しの遅延でも周囲の状況は大きく変化してしまうのだ。しかし5Gなら、遅延は僅か1ミリ秒(1000分の1秒)以下。リアルタイムに情報をやり取りでき、高速走行にも対応できる。
KDDIは遠隔監視に5Gを活用
自動運転を支える5Gの視覚拡張はもう一つある。遠隔監視だ。KDDIは19年2月、愛知県一宮市の公道で自動運転車の実証実験を行った。運転席にドライバーはおらず、高精細の4Kカメラなど、クルマに取り付けられた合計6台のカメラからの映像を、遠隔管制室のスタッフが監視。障害物を検知し自動停止したときなどは、遠隔運転で障害物を回避できる体制を整えた。
この実証実験のポイントは2つある。1つは、映像の伝送や遠隔運転に初めて5Gを用いたことだ。高速大容量の5Gで「映像を圧縮せずに伝送できるようになれば、その処理にかかる時間を大幅に低減できる」とKDDIの技術統括本部 技術企画本部 コネクティッド推進室長の鶴沢宗文氏は説明する。従来のLTEでは、通信帯域の限界があるために、映像データを50分の1などに圧縮してから送信し、受け取った後で伸長する処理が必要だった。
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