5G時代には、あらゆる場所で高精細な映像を送受信できる環境が整う。本特集の前半では、5Gが「ヒトの視覚を拡張する」ことで切り開く、新たな可能性を探る。AI(人工知能)の進歩で、映像に映る人やモノを判別可能になった。AIと5Gの組み合わせを生かす用途の代表がセキュリティーだ。

綜合警備保障(ALSOK)は警備員が持つウエアラブルカメラなどを活用し、映像を5G経由で伝送することで警備を効率化する取り組みを進めている
綜合警備保障(ALSOK)は警備員が持つウエアラブルカメラなどを活用し、映像を5G経由で伝送することで警備を効率化する取り組みを進めている

 多様な業種で人手不足が深刻化している。警備会社も例外ではない。もはやヒトを大量に投入する労働集約で警備を強化しようという考え方は古いものとなりつつある。その代わりに広がっているのは、あらゆる最新技術を駆使した警備の強化策だ。「人間の頭脳に当たるAI、目に当たる4K、神経に当たる5Gは、現代版の三種の神器になる」と説明するのは、綜合警備保障(ALSOK)の執行役員待遇 開発企画部新規事業担当の桑原英治氏だ。

 ALSOKは、街中のあらゆる場所にカメラを設置し、不審者や危険物、火災や災害などの異常を察知する構想を立てている。映像を分析できるAIの精度が高まっても、画質が悪ければ察知の精度は上がらない。だからこそ高精細の4Kカメラと、その大容量の映像データを届ける5Gが不可欠になる。

 「これはビルの8階に置いたカメラで街中を撮影したものです」と桑原氏は、4K映像とHD映像を見せてくれた。画面の中央部分には、300メートル先の横断歩道を渡る人々が映っている。4K映像は人の姿が鮮明だが、HD画像では明らかに歩行者の姿がつぶれており、これではAIで分析ができないという。4K映像を送信するには毎秒25メガビットの帯域が必要となり、「LTEでは4K映像を十分に飛ばすことができない」(桑原氏)と説明する。

 2018年には、NTTドコモなどと共同で東京スカイツリーの展望台に4Kカメラを設置し、都市のセキュリティーに役立てる5G警備の実証実験を実施した。解像度の高い4K映像だからこそ、街中で起きた火災や、道路を走る車の位置や速度を捉えて暴走車両を発見するといった使い方ができる。

ALSOKの都市空間セキュリティー構想。高い場所にある広域カメラ、室内のカメラ、移動するカメラなど複数の映像を組み合わせて安全性を高める
ALSOKの都市空間セキュリティー構想。高い場所にある広域カメラ、室内のカメラ、移動するカメラなど複数の映像を組み合わせて安全性を高める

 東京スカイツリーのような高い場所のほか、多彩なカメラで異常を捉える警備網を同社では「現代版火の見やぐら」(桑原氏)と呼んでいる。高い場所からの「鳥の目」に加えて、ドローンや車両などの動くカメラを「魚の目」、建物内などの固定カメラを「虫の目」と呼ぶ。各カメラの映像は、監視センターのAIで解析して異変を察知する。こうしたシステムによって人を必要以上に増やすことなく、警備体制を強化できる。

店舗では万引きの検知も

 AIの認識技術も進化している。同社の研究によると、AIを使えばカメラの映像から不審な人物が「うろうろしている」「きょろきょろしている」といった行動を捉えられる。体調が悪い人が「うずくまる」「倒れる」といった異変も察知できる。AIが不審者や異変を発見した場合は、現場付近の警備員に通知する。将来的に、警備員が装着するARゴーグルに不審者などの情報を通知する構想もある。

 その時に不可欠となるのは、5Gの特徴の1つである低遅延だ。「LTEで映像を飛ばすと、AIが異変を察知して、警備員に通知するまでに3秒ほどかかるが、5Gであれば、200ミリ秒ほどに抑えられる」(桑原氏)。初動までのわずかの差が安全に影響を及ぼす可能性もある。暴力やテロ対策だけではなく、店舗内の万引きの防止などにも役立てられそうだ。

 車を使った屋外の見守りサービスも実験を進めている。19年1月には徳島県神山町でNTTドコモや総務省と実証実験を実施した。車に複数のカメラと5Gの送信機能を搭載し、映像を監視センターに送信。各カメラの映像をつなぎ合わせる処理を加え、360度映像を常時モニタリングできるようにした。周囲を走る車の乱暴な運転などを監視するほか、車両が移動しながらカメラを地域見守りに活用し、徘徊(はいかい)者や迷子などの情報を得ることを想定する。

NTTドコモが主体となって実施した総務省の「5G総合実証試験」。車に搭載したカメラ映像を監視センターに送り、常時モニタリングできるようにした
NTTドコモが主体となって実施した総務省の「5G総合実証試験」。車に搭載したカメラ映像を監視センターに送り、常時モニタリングできるようにした

 ALSOKは、20年の5Gの商用化サービスが始まると同時に「5Gで警備の映像を送信する取り組みをすぐに始める。AIとの連携も並行して開発し、数年もかけずに導入を進める」(桑原氏)という考えだ。

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