「Facebook」や「Instagram」のような利用者のデータをログとしてすべて取得できるサービスを持つ大手プラットフォーマーでも、インサイト調査は欠かせない。ログデータから見つけ出せるインサイトには限界があるからだ。ログデータの弱点と併せて、著者がFacebookやInstagramで実践する調査とその効果を紹介する。
「フェイスブックのようにデジタルのログでさまざまな解析ができる企業でも、お客様の生活者の全体像を理解するためのインサイト調査は実施されているのでしょうか」
本連載を開始後、読者の皆様から色々な反応をいただいており、本当にありがたく思っている。そんな中でよく聞かれる質問の1つがこちらである。答えは「Yes」だ。
カスタマー・ユーザー数が多く、サービス利用動向をログという形でリアルタイムで取得できる企業の場合、インサイト調査をせずとも、利用者拡大につながるビジネスインサイトが得られるというのは一部事実ではある。実際にフェイスブックもデータエンジニアリングの部署があり、データが分析できる環境は整っている。データサイエンティストにとっては夢のような状況だ。一方で、カスタマー・ユーザーと実際に向き合い、インサイトを見つけるためのリサーチも数多く実施している。それは全数ログでできることには限界があるからだ。
全数ログデータでできること、そしてその限界
第2回でも書いたが、人は基本的に無意識で決断をしている(関連記事「Instagramのインサイト活用法 消費者の無意識の決断を理解」)。だからこそリサーチの世界では数年前から、「ASK(聞く)」ではなく「OBSERVE(観察する)」の重要性が語られている。全数ログデータを活用したインサイトの発見はその1つ。全数ログデータの利点は以下のようなものが挙げられる。
(1) ログを取ることで無意識の行動もデータ化される
(2) CookieやデバイスIDでひも付けられ、カスタマー・ユーザーの行動が点ではなく線として分かる
(3) サードパーティーとデータ連携をすることで、より幅広くカスタマー・ユーザーの行動を理解できる
(4) 全数データで把握できるため、アンケートやパネル調査にあるサンプルバイアスがかからない
(5) サンプルサイズが大きくなるため統計解析が有効になり、深いインサイトが見つかる
(6) マーケティングキャンペーンなどの刺激に対してどう反応したかが瞬時に分かる
(7) 自社サイトやアプリ内であれば調査コストをかけずにカスタマー・ユーザーのことが分かる(データ環境の整備や人材育成などのコストはかかる)
これらの利点を見る限り、盤石のように思える全数ログデータだが、限界はある。「全数ログデータ」という名称に惑わされやすいが、人を基点にして考えるとあくまで細分化された世界での全数である。例えばアプリ内の行動ログデータであれば、そのアプリ内のことしか分からない。また別の角度から見れば、仮に平均30分間、サービスを利用していたとして、ログからはその30分間のことしか分からない。さらに、アプリを使っていない人のことは全く分からない。活用できる範囲は、サイトやアプリの利用を最適化するためのインサイト作り程度にとどまるだろう。
だからこそフェイスブックのようなデジタルプラットフォーマーであっても、カスタマー・ユーザーに直接会って話を聞くという機会は非常に多い。SNSのプロフェッショナルであるインフルエンサーやアスリートといった方にもインサイト調査をしている。今回は実際のユースケースをご紹介したい。
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