ライフスタイルの多様化、スマートフォンの普及による情報の分散化などによって、顧客の実像をとらえることが難しくなっている。消費者の実態を把握し、ニーズに合った商品やサービスを開発するうえで、マーケターは「インサイト」を把握するスキルが求められる。インサイトで誤解しがちな3つのポイントを解説する。
テクノロジーの進化とともに、デジタルマーケティング市場は拡大してきた。一方で最適化だけを追い求めるビジネスでは成長に限界があり、今、マーケティングやブランディングのあり方は抜本的な見直しを迫られている。「インサイト」に基づく市場創造の重要性が語られているのものその流れであろう。
ところが、スタート地点とも言えるカスタマーやユーザーの理解、そのインサイトについては、その定義からして人によって異なり、曖昧であり、誤解が多いように思う。まず、インサイトの定義について確認していこう。
インサイトという単語を英和辞書で調べると「洞察」と訳されている。では洞察とはどういう意味だろうか。大辞林によれば「鋭い観察力で物事を見通すこと。見抜くこと」、とある。
ただ、もう少し調べてみると面白いことがわかる。
世界大百科事典によれば、洞察とは元をたどれば心理学用語だったようだ。その意味を調べると「人ないし動物がある困難な情況に直面したとき、突然、解決手段を見い出して、その情景の目的にかなった行動をとるような場合の心的過程を説明する概念」のことらしい。
これを示す、最も有名な実験はドイツの心理学者ヴォルフガング・ケーラーのチンパンジーの実験である。天井につるしたバナナを得ようと、何回か飛びついてみたが、得ることのできなかったチンパンジーが部屋に置かれた箱や棒に気づく。箱を重ねたり、手近にある棒を用いてバナナをとることに成功したりする実験である。チンパンジーは洞察によって、解決手段を見いだしたわけだ。ポイントは個々の状況を理解するのではなく、それぞれの要素から全体の連関を把握することを意味している。
なるほど、インサイトを調べると、洞察以外にも「直観(直感ではなく)」「見通し」といった意味があるのも納得である。個人的には深くカスタマーインサイトを理解し た状況を「肌感がついた」と表現している。「肌感」という単語を説明する時に、私は例え話として仲の良い人へのプレゼント選びをよく使う。家族や、交際している異性に誕生日にプレゼントすることをイメージしてほしい。わざわざほしい物を聞かなくても、「なんとなく」トンマナを含めてこういうものが喜ばれるだろうな、逆に嫌がられるだろうなということが直観的にわかるのではないだろうか。それを肌感が付いた状態と私は呼んでいる。
スマートニュース執行役員マーケティング担当の西口一希氏は、特定の1人のニーズを突き詰めて分析する手法「N=1分析」というアプローチを書籍などで紹介されているが、それも肌感をつけ直観力を身につけるためのものではないだろうか。
インサイト分析が必要か分かる3つの質問
さて、一度本題に戻って考えてみる。皆様が現在持っているカスタマーインサイトやユーザーインサイトはどうであろうか。
・顧客の「全体像」を指しているだろうか?
・顧客についての肌感はついているだろうか?
・ビジネス課題について解決策が直観で答えられるだろうか?
上記の質問に関しての答えがYESではなく、最適化だけでビジネスが伸びない時期に差し掛かっているのであれば、インサイトを深掘りする必要があると判断した方が良いだろう。
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