「パーセプション」とは、消費者が商品やサービスを捉える「認識」を指す。その認識を、マーケティングによって意図的に変化させるのが「パーセプションチェンジ」だ。連載の第2回では、アクションカメラ「GoPro」の成功例からパーセプションチェンジの重要性をさらに掘り下げてみよう。
現代は、「買う理由が欠如した時代」だと筆者は思う。情報と消費が飽和する時代には、商品そのものの差異化はおのずと難しくなる。「物欲」のありかたも変わる。生活者の可処分時間の取り合いが激化し、競合は同一カテゴリー内のライバルだとも限らない。例えば、メーカーや小売りにとって、スマートフォンのゲームやSNSも可処分時間を奪い合う競合と考えられるかもしれない。だから、商品やサービスそのものよりも「買う理由」の方が重要になっている。
読者の皆さんは、「マインドシェア」という考え方はご承知だろうか。特定のブランドや商品が、消費者の心の中でどの程度好ましい位置を得られているかを表す比率だ。
「市場シェア」とは異なる基準として、マーケティングの基礎的な要素である。しかし、今注視すべきは商品のマインドシェアではなく、むしろ、買う理由のマインドシェアだ。消費者の中で、特定商品やカテゴリーの「必要性の占有率」はいかほどなのか。そして、それを決定する大きな要因こそが、パーセプションなのだ。
「良いXX」の定義を変える、属性順位転換
ところで、私たちがあるカテゴリーに対して抱いている認識として、「良い商品」の定義がある。例えば、「良いクルマと言えば、エコカー」というのはその一例。そして、この良い商品の定義は時代と共に移り変わる。自動車を例にとって見てみよう。
1980年代は「良いクルマ」といえば、トヨタ自動車のソアラや日産自動車のシルビアといったクーペが主流だった。それが90年代に入ると、トヨタのクラウンや日産のシーマなど、ラグジュアリーで乗り心地の良い自動車が、良いクルマを代表し始める。
2000年代からは、ワンボックスカーが台頭。10年代に入ると、トヨタのプリウスや日産のリーフに代表されるエコカーが良いクルマの代表格だ。明らかに、良いクルマに対する社会的合意は、10年周期ぐらいで移り変わっている。これは言葉を変えれば、良い商品の再定義が繰り返されているということになる。
これが、いわゆる「属性の順位転換」と呼ばれるものだ。属性順位転換の提唱者であり、数々の大手企業でブランドマネジャーやCMO(最高マーケティング責任者)の経験を持つ音部大輔氏は、「同じクルマであっても、良いクルマの定義が時代によって違う。その定義こそが具体的な属性。ドライブに行きたいという大きな消費者ニーズは変えにくいが、この属性は変えることができる」と著書の『マーケティングプロフェッショナルの視点』に記している。
つまり、あるパーセプションが生まれることによって、買う理由が変化する。これが属性順位転換の正体だ。この属性順位転換が当てはまるマーケティングの成功事例は、世の中に少なくない。
プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の洗濯用洗剤のアリエールは、パーセプションチェンジを起こすことで、ブランド価値を維持している。従来は「とにかく白く洗い上がる洗剤」を良い洗剤と定義していた。2000年代頃から「除菌ができるのが良い洗剤」という属性に転換させ、新たな市場を創出した。
ベビー用品メーカーのピジョンは、10年代に、「軽い」「ファッショナブル」などが主流だった良いベビーカーの定義に、「安定性」という属性を持ちこみ、市場シェアを5%から20.9%(19年1月期)まで拡大させた。これらは全て、洗剤やベビーカーのカテゴリーにおけるパーセプションチェンジがもたらした勝利だと言える。
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