グラフはビジネスに欠かせないデータ可視化の手段。誤った使い方をすれば、顧客や上司の理解を得られないばかりか、信用を損ないかねない。正しい作法に沿った「美しいグラフ」とは何か。コンテストで複数の受賞経験があるビジュアライゼーション(データ可視化)の達人、松島七衣氏が解説する。
2.グラフは複数データを比較しなければ意味がない
3.比較のため縦横の軸をきっちり合わせる
新聞や雑誌、ネットや街中の広告、社内の文書やプレゼンや決算の資料。生活や仕事の中で、グラフを見かけない日はありません。ビジュアルで把握できるグラフは、文字情報と比べて直感的に把握できるという長所があります。
多くの人々は、「グラフはデータに裏付けられた正しいものだ」と捉えています。私たちが日々目にしているグラフは、本当に正しくデータを伝えているでしょうか。私はこれまで効果的にデータを伝える手段「ビジュアライゼーション」を学んできました。その知識を得た後で、実感することは「世の中にはなんて正しくないグラフがあふれているんだろう」ということです。
複雑で、紛らわしくて、見づらい。そんなNGグラフが読者や消費者に毎日届けられ、ビジネスの現場でも使われています。意図的に誤った結論に誘導しようとする悪質なグラフさえあります。
ビジュアライゼーションを学んだことで、グラフのごまかしているポイントを見つけたり、改善案を自分の中で考えたりする癖がつきました。NGグラフを探すことが、私にとってはまるでゲームのような感覚になっているほどです。
「正しいグラフ」は必須スキル
特にビジネスの現場では、正しいグラフを作る力や、NGグラフを見抜くスキルが今後ますます必要とされます。グラフの作り手が恣意的に操作しようとしているかを把握できれば、先手を打ち、誤った意思決定を避けることができます。自ら正しくデータを示すことで、上司でもお客様でもコミュニケーションを取る中で優位に立てます。
専門的に学ばなくても、正しくグラフ化する基本スキルは、誰でも身に付けることができます。米国では学生のうちに受ける授業のカリキュラムに入っていることが多いと聞きますが、日本ではそうではありません。学生のうちに教育を受けておくことがベストですが、既に第一線で活躍しているビジネスパーソンも、今から知っておくべきなのです。
本連載では、NGグラフにだまされないための受け手側の視点と共に、正しい「美グラフ」を作るスキルをお伝えしていきます。ここで美グラフとは、①正しく伝わる②分かりやすい③シンプルの3拍子がそろったグラフと、ここでは定義します。毎回のテーマに沿って、作法を身に付けていきましょう。
数字よりも頭に残るグラフ
連載の中では、さまざまな表現方法を伝えていきますが、その前段階として、今回はテレビで放映されたNG例(内容は改変しています)をいくつか紹介していきましょう。
これはあるスポーツイベントの予算が6倍に膨れ上がったというニュースの例です。「3000億円程度」と「1兆8000億円」と数字を並べています。このようにテロップで情報を伝える手法はテレビではよく見かけます。ただ、人間の目は、数字の羅列を読むよりも、視覚的に差を捉える方が得意です。グラフ化することで格段に分かりやすく、「こんなに膨張しているのか」と実感できて、頭にも残りやすくなります。
グラフは比較するためのもの
次の例に進みます。グラフというものは、大きさの比較や推移など、複数の数字から、何かを読み取ってもらうときに使うものです。棒1本では意味をなさない、というのが常識なのですが、こちらの例では見事に1本だけでした。アンケート調査の結果、「ある」の割合が多いことを表したいなら、「ない」を並べて比較すべきなのです。そうすることで「ある」の方が多いという意味が際立ちます。
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