世界で急速に進む近未来の食の革命、「イノベー食(ショク)」の衝撃をリポートする本特集。第1回で取り上げるのは、植物性の“卵”や、和牛の培養肉の開発で知られる米スタートアップ、JUST(ジャスト)。環境にやさしくてサステナブルな「代替タンパク質革命」を推進する同社で活躍する、味の素出身の日本人研究者にフォーカスを当てる。

2018年に米ジャストに参画した味の素出身の若き研究者、滝野晃將(あきひろ)氏。1988年生まれ
2018年に米ジャストに参画した味の素出身の若き研究者、滝野晃將(あきひろ)氏。1988年生まれ

 2019年8月8日~9日に開催された未来の食のイベント「スマートキッチン・サミット・ジャパン2019」(主催シグマクシス)で、来場者の注目をひと際集めた人物がいた。米ジャストでフードサイエンティストとして働く唯一の日本人、滝野晃將(あきひろ)氏だ。

 ジャストは、11年にハンプトン・クリークとして設立された。完全植物性のマヨネーズ「JUST Mayo(ジャストマヨ)」を売り出して話題を呼んだ後、社名を現在のジャストに変更。現在は、18年に発売した緑豆から抽出したタンパク質を主原料とする植物性の“液卵”「JUST Egg(ジャストエッグ)」を主力製品とし、鶏肉や和牛を細胞から育てる培養肉の開発にも取り組む。

完全卵フリーの「JUST Egg」
完全卵フリーの「JUST Egg」

 同社は、豆やトウモロコシなど、数十万種の植物から抽出した植物性タンパク質の分子特性や機能(水溶性、粘性など)を解析。それをデータベースに蓄積し、キー素材を探索する自動化システム「ディスカバリープロセス」を保有しているのが強み。それゆえ、乳化しやすい性質を持つ植物性タンパク質は“マヨネーズ”に、鶏卵と似た性質を持つものは“卵”にと、動物原料を植物由来のキー素材で自在に置き換えられる。従来の畜産や養鶏に比べて圧倒的に環境負荷が低く、持続可能なアプローチで「代替タンパク質」を提供する、まさに新時代の食のスタートアップの代表格と言える存在だ。

 この代替タンパク質分野では、植物由来のバーガーパテなどを製造する米Beyond Meat(ビヨンドミート)が5月にナスダックに上場。8月中旬時点の株価は上場時の約6倍に達しており、その時価総額は約87億ドル(約9222億円、1ドル=106円換算)に上る。2050年には世界の人口が100億人に達すると言われ、“爆食”がもたらす食糧不足、環境破壊の危機が迫る中で、代替タンパク質の重要性、将来性が広く認知されている証左と言えるだろう。

なぜ味の素を辞めたのか?

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