2019年10月に携帯電話事業に新規参入する楽天モバイル。既に成熟した市場で、先行する大手携帯電話会社3社を相手に、どう勝負をかけるのか。武器になるのは、先端技術を積極採用した独自のネットワークと、電子商取引(EC)をはじめとする各種サービスで築いてきた“楽天経済圏”だ。
「iPhoneがデバイスの革命ならば、楽天はネットワークの革命を起こす」――。19年7月31日に楽天が開催したプライベートイベント「Rakuten Optimism 2019」の基調講演で、三木谷浩史会長兼社長はそうぶち上げた。
楽天は19年10月、携帯電話事業に新規参入する。グループ会社の楽天モバイルを通じ、MVNO(仮想移動体通信事業者)としてシェア1位の地位を築いたが、今後はMNO(移動体通信事業者)として独自網で事業を展開する。
その楽天が武器とするのは、独自の完全仮想化クラウドネットワークだ。NTTドコモやKDDI、ソフトバンクなど先行する携帯電話事業者のネットワークでは個別の基地局で行っている通信処理を、楽天はクラウドネットワーク上のエッジ・データセンターに集約。しかも、専用のハードウエアではなく、オープンソフトウエアと汎用サーバーで処理できるようにした。これにより、通信設備の設置や運営に関わるコストが大幅にダウン。システム構築の自由度も高めている。通信設備を持たない新規事業者がゼロから構築するネットワークだからこそ採用できた最新技術だ(関連記事「携帯電話キャリアになる楽天 仮想化技術で5G網を構築」)。
今後は、楽天モバイルの既存契約者約220万(19年7月に買収したDMM mobile契約者を含む)をMVNOからMNOのサービスに移行させること、新規の契約を促すことで、ユーザーの獲得を図る。
基盤になるのは楽天会員とコンテンツか
そのときの基盤となるのが、「楽天市場」をはじめとする各種サービスを連携させることで構築した“楽天経済圏”だ。MVNOとしての楽天モバイルは、「格安SIM」という呼び名に象徴される通信料金の安さと、各種サービスの併用に伴うポイント還元を強みに契約数を増やしてきた。楽天によると、楽天モバイルの契約者が楽天市場を併用している割合は90%。同じく、楽天カードは74%、楽天トラベルは60%、楽天銀行は26%に上るという。ユーザーからしてみると、楽天のサービスを利用すればするほど、楽天ポイントの還元率が高まり、楽天サービス内に取り込まれていく形だ。
MNOとしての料金体系やサービス内容はまだ明らかになっていないが、この戦略に変わりはないだろう。その上で、自社網を使えるようになり、かつ5G化が進めば、提供できるサービスのバリエーションはさらに増える。「これまでサービスの組み合わせでユーザーのメリットを生み出してきたが、今後はインフラも組み合わせたサービス設計がしやすくなる」(楽天広報)からだ。
現時点で想定できる1つの形が、コンテンツ配信だ。前述のRakuten Optimism 2019では、一般消費者向けのサービスイメージとして、360度カメラで撮影したVR(仮想現実)映像によるサッカー中継の体験ブースを設置。VRヘッドセットを装着することで、さもゴール脇に座っているかのような視点でサッカーの試合を観戦できた。また、同社は18年11月に、東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地「楽天生命パーク宮城」で、360度カメラで撮影した8K VR映像を配信する実証実験を行っている。こうしたコンテンツ配信でも、「自社のネットワークの性能を最大限発揮できるサービスを開発していきたい」(楽天広報)としている。
しかも、楽天グループが抱える人気コンテンツは多い。プロ野球では楽天イーグルス、サッカーではヴィッセル神戸を保有。16年には、スペインの名門サッカーチーム「FCバルセロナ」と4年間のパートナー契約を結んだ。19年8月には、米国を拠点に映画の製作・配給を手掛ける米The H Collectiveと映画製作会社「Rakuten H Collective Studio」を設立することで合意。映画やそれに絡む音楽、コミック、ゲームの製作、商品化に取り組むと発表している。インフラ、ソフト両面から、グループの強みを発揮できる環境が整った。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー