「ソフトバンクショップ」に異変が起きている。ここ1年で、「ソフトバンク」「ワイモバイル」の2枚看板を掲げる店舗が急増。半数以上の約1700店舗が両ブランドを併売する。価格競争力があるワイモバイルで他社からユーザーを奪い、その後、単価の高いソフトバンクに誘導する。特集の2回目では、新たな戦い方の歯車がかみ合い始めたソフトバンクの戦略を紹介する。

ソフトバンクショップの半数以上で、サブブランドのワイモバイルの取り扱いを始めている
ソフトバンクショップの半数以上で、サブブランドのワイモバイルの取り扱いを始めている

 「(2019年10月に施行される改正電気通信事業法は)マイナス要因もあるがプラス要因もある。ユーザーが流動しやすくなるので、傘下の3つのブランド(ソフトバンク、ワイモバイル、LINEモバイル)をうまく活用して、他社からユーザーを獲得したい。特にワイモバイルは非常に強い」。ソフトバンクの宮内謙社長兼CEOは、19年8月に開かれた決算説明会でこう意気込みを語った。ワイモバイルは、ソフトバンクが13年に子会社化した、イー・モバイルを前身とするサブブランド。ソフトバンクブランドよりも安価な料金体系を売りにする。LINEモバイルは18年にソフトバンク傘下に入ったMVNO(仮想移動体通信事業者)で、ワイモバイルよりもさらに安い。実店舗は持たず、コミュニケーションアプリ「LINE」が主要な販路だ。

 各ブランドの詳細な回線数は公表されていないが、決算資料のグラフを基に推測することはできる。18年6月末から19年6月末の1年間の回線増加数は、ソフトバンクブランドが約51万回線とみられるのに対し、ワイモバイルはそれを上回る約80万回線を獲得したと推定される。伸びで見るとその差は明らか。ソフトバンクブランドは3%程度と微増にとどまるのに対し、ワイモバイルは20%以上の伸びを記録している。

回線数の伸びでは、ワイモバイルがソフトバンクブランドを大きく上回る(回線数は決算資料を基にした推定値)
回線数の伸びでは、ワイモバイルがソフトバンクブランドを大きく上回る(回線数は決算資料を基にした推定値)

 ワイモバイルの最大の売りは、何といっても料金の安さ。月3GBのプランが1年目1980円(税別、以下同)という水準は、KDDI系のMVNO「UQモバイル」や楽天モバイルなどの格安スマホ各社が追随するほどの人気となった。当初は学生など若者を中心にユーザーを集めていたが、最近は顧客層をシニアへも拡大。また、月9GBでも1年目2980円、月21GBも同4980円で済むことから、ライトユーザーだけでなくヘビーユーザーの利用も増えている。

 ユーザー層の拡大を強力に後押ししているのが店舗網の拡充だ。ワイモバイルはソフトバンクの一事業ではあるが、もともと別会社だった経緯もあり、キャリアとしては独立した扱い。取扱店舗も全国約900のワイモバイルショップ(旧イー・モバイルショップ)だけだった。それが1年ほど前から、ソフトバンクショップでも取り扱いを開始。今では約2300のソフトバンクショップのうち、約1700が両ブランドの併売店舗となっている。店頭の看板も両ブランドのロゴ入りのものに掛け替えられている。

 なぜ併売店化を進めているのか。ソフトバンクによると「ワイモバイルのアフターサポート拠点を全国的に増加させる」ことに加え、「多様化するニーズへの対応」という目的があるという。多様化するニーズとは、ソフトバンクブランドでは対応できない低価格志向のユーザーのことを指す。

 ただし、これはもろ刃の剣だ。これまではソフトバンクブランドとワイモバイルは別キャリアという“建前”があったため、高価格のソフトバンクブランドはユーザーをつなぎ留めてこられた。しかし、サービスエリアも通信速度もほぼ同じで、しかも同じ店で売られているのであれば、あえてソフトバンクブランドを選ぶユーザーがいるのだろうか。併売店の実態がどうなっているのか、店頭に足を運んでみた。

大容量プランなら実は割安なソフトバンクブランド

 訪れたのは、都内のソフトバンクショップ。スタッフには、他社からの乗り換えを検討しており、月に10GB前後使っていると伝えた。スタッフは1台のタブレット端末を使い、ソフトバンクブランドとワイモバイル両方の料金プランを比較しながら説明してくれた。確かにソフトバンクブランドのほうが高いが、その差は1000円程度。イメージほどの料金差はなかった。

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