I-ne(大阪市)の植物由来シャンプー「BOTANIST」など、対象顧客を絞った「スモールマス商品」が産業界で注目を集める。スモールマスとは2019年3月まで花王専務を務めていた吉田勝彦氏による造語だ。マスマーケティングの雄・花王はなぜスモールマスに注目するのか。“生みの親”に聞いた。
8月5日、日本コカ・コーラはI-ne傘下のEndian(エンディアン)という会社に出資。同社が販売するリラクゼーションドリンク「CHILL OUT」(チルアウト)の販売やI-neが得意とする「トレンドの半歩先をゆく」飲料分野の新商品、ブランドづくりなどに共同で取り組むと発表した。
I-neは、9割以上を植物由来成分が占めるノンシリコンシャンプーBOTANISTで一躍名を馳せた。モノトーンのシンプルなパッケージが印象的でインスタグラマーなどが盛んに拡散。1512円(税込み)とこのカテゴリーでは高価格帯ながらドラッグストアのヘアケア分野でシェア3位を占めるなどヒットした。
今、このBOTANISTやCHILL OUTのように、マス(多数)受けを狙うのではなく、あえてスモール(少数)なセグメントに対象顧客を絞り込み、エッジの立った特徴を持つ「スモールマス」と呼ばれる商品が産業界で注目されている。
とりわけ、多額の広告宣伝費を投じて商品・ブランドのマス化を進めていたような大手メーカーが、スモールマス商品に関心を寄せる。日本コカとI-neとの一件もこうした文脈で読み解くことができる。花王では「and and」、「メリット PYUAN(ピュアン)」、「エッセンシャルflat」、入浴剤の「バブ エピュール」、そして花王初のネット販売専用商品である通称「ブラックプリマ」などが、スモールマスを意識して開発・販売している商品となる。
実はこのスモールマスという言葉。19年3月まで花王で専務を務めていた吉田勝彦氏がつくったものだ。日本コカに負けず劣らず。大量のテレビCM出稿など、マスマーケティングの力で業界ナンバーワンの地位を維持してきた花王が大きく戦略を転換していることの象徴でもある。そんな注目キーワードの“生みの親”を直撃した――。
最新キーワード「スモールマス」は、こうして生まれた
スモールマスという言葉が最近、注目を集めています。これは15年に始まった、デジタルマーケティング部門幹部との2カ月に1回の定例ミーティングの中で生まれたそうですね。どういう議論をしていたのですか。
吉田勝彦氏 かつて花王には、マスを世帯として捉えて、その世帯ではみんな同じ物(商品)を使うという感覚がありました。まず消費者の意見を徹底的に聞き、(汚れがよく落ちる洗たく洗剤など)消費者が抱える課題解決につながる“良いもの”を、高い技術力を生かして1つ作る。それをマス・マーケティングを通じて売って高いシェアを取る。それが花王の売り方でした。
しかし今では世帯をつくっている個人のライフスタイル、ニーズが多様化している。とても1つにくくれなくなってきた。例えば娘さんがシャンプーに求めるものと、お父さんが求めるものとは違う。シャンプー1つをとっても、家族全員がそろって同じものを使うという時代ではありません。
そんな話を(ミーティングのメンバーと)しながら、これからはよりスモールな(少数の)グループが求めるニーズを深く理解し、それぞれに合った商品を開発・提供していく必要があるという議論をしました。そうした中で出てきたのがスモールマス(という言葉)です。
スモールどころか一人ひとりに合わせたパーソナライズや、カスタマイズ型の商品、サービスが登場しています。スモールマスは、その(マスとパーソナライズの)中間を狙った戦略、ということですか。
そうです。ネット企業なら、パーソナライズした商品、サービスを提供するのは容易でしょう。ただ、花王のような(リアルな商品をつくっている)メーカーがそこまで(パーソナライズやカスタマイズを)やって利益を上げられるのか。本当に喜ばれるものになるか。これは議論の余地があるところです。
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