花王が製品化前の技術公開に初めて踏み切った。狙いは他の企業や大学を巻き込んだオープンイノベーションを推進し、技術の応用を加速させることにある。公開された5つの技術の概要と応用の可能性を解説する。

公開された界面活性剤「バイオ IOS」の分子構造モデル。長い親油基の中間部に親水基(赤とオレンジの球)が位置する構造に特徴がある
公開された界面活性剤「バイオ IOS」の分子構造モデル。長い親油基の中間部に親水基(赤とオレンジの球)が位置する構造に特徴がある

 花王が2019年4月に発売した「アタック ZERO」は、「アタック液体史上最高の洗浄力」をうたい文句にしている。洗浄力の裏付けとなっているのが、同社が独自に開発した「バイオIOS」である。少量でも油に吸着し、汚れを良く落とす特長がある界面活性剤のことで、融点が低く、水に溶けやすいという性質も備える。これまで洗浄に不向きとされてきた、アブラヤシの果肉部から抽出した固体性状油脂を原料としている。

 日本では、化学繊維を使用した衣類が増えている。その中でもポリエステルに付いた皮脂などの汚れは、洗濯しても落ちにくい。こうした汚れの蓄積が、衣類の臭いや黒ずみなどの原因になっていた。さらに、節水タイプの洗濯機が普及したことから、少量の水で洗濯する家庭が増えており、衣類の汚れが落ちにくい原因になっていた。バイオ IOSは、こうした現代の洗濯における課題を解決する技術として期待される。 

 バイオIOSは、18年11月に花王が公開した技術イノベーションの5つのテーマの一つである。同社が、製品化前の技術を公開するのは初めてのこと。産学官とのオープンイノベーションにより、技術を社会課題の解決などに活用するという狙いがある。花王は、19年度中にこれらの技術の応用や展開について発表する計画だ。

花王が公開した5つの研究テーマ
・界面:バイオ IOS
・皮膚:Fine Fiber
・健康:RNA Monitoring
・環境:Package RecyCreation
・毛髪:Created Color

※詳しくは次ページ以降をご覧ください

サステナブルな界面活性技術「バイオ IOS」

 天然植物油脂原料を使用する界面活性剤は、少ない原料を、メーカーが競って入手しているという現状がある。それに対して、バイオ IOSは、アブラヤシの実からパーム油を採取した後のこれまでほとんど使われてこなかった油脂を原料としている。その意味で、サステナブルな界面活性剤という側面がある。

 これまでも、工業用では、パーム油を採取した後の原料からつくられた界面活性剤は使われていたが、製造過程が高温で、茶色になるという問題があった。同社は独自の技術で、無色化することに成功。衣料用洗剤としても使用できる品質にした。

 世界的な人口増加に伴い、洗濯に使われる界面活性剤の使用量は増加する見込みだ。そのため、バイオ IOSは洗浄力が強く、資源を有効活用できる原料として期待されている。

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
この記事をいいね!する