花王が今、変わろうとしている。数年前からデジタルマーケティングやECに積極的に取り組み、商品化につなげる研究部門の改革などを進めている。この特集では花王が進める「革新」に全5回(予定)でスポットを当てる。初回はマーケティングの革新を、イケメン俳優5人のテレビCMで注目された「アタックZERO」の大規模プロモーションから検証する。

SHIBUYA109に登場したアタックZEROのティザー広告(左)。2019年4月1日の発売日にはイケメン俳優の広告に切り替わった(右)
SHIBUYA109に登場したアタックZEROのティザー広告(左)。2019年4月1日の発売日にはイケメン俳優の広告に切り替わった(右)

 新元号の発表まで残り1週間となった2019年3月26日、若者でにぎわうSHIBUYA109に「4.1発足 #洗濯愛してる会 COMING SOON!」の文字と、5人のシルエットが描かれた看板が現れた。花王の洗濯用洗剤「アタックZERO」のティザー広告だ(関連記事「花王の基幹洗剤が10年ぶりに刷新 洗浄力の高さで“ニオイゼロ”」)。

 ツイッター上ではシルエットが誰なのかで大盛り上がり。そして迎えた4月1日のアタックZERO発売日、新テレビCM発表会の様子がツイッターでライブ配信されると約10万人が視聴。発表後に109の看板はイケメン俳優5人が映ったものに切り替わり、スクランブル交差点にテレビCMが流れた。

 前代未聞の洗濯洗剤CMの「渋谷ジャック」で、アタックZEROの名は発売日から一気にSNSで拡散した。花王によると、ツイッターでの投稿数は、発売1週間で10万を超えたという。

「時系列コミュニケーション」戦略とは?

花王が考える時系列コミュニケーション
花王が考える時系列コミュニケーション
エボークトは消費者が購入の前に検討対象として頭に思い起こすブランド(花王の資料を参考に編集部で制作)

 花王はアタックZEROのマーケティングにおいて「時系列コミュニケーション」という戦略を採用した。一過性のコミュニケーションではなく、テレビCMやSNSなどを通じて消費者に継続的に商品情報を提供し、購入まで導く。ド派手な渋谷ジャックは、時系列コミュニケーション戦略スタートの号砲だった。

 時系列コミュニケーション戦略では、「想起→意義→差別」という段階を経て消費者とのコミュニケーションを深めるように設計した。「想起」は気づいてもらうこと、「意義」は製品の特徴を理解させ、購入対象として認識してもらうこと、「差別」は他社の商品と比較して優位性を確認してもらうことだ。

 当たり前だが、「想起」に成功しても「意義」の段階で購入対象にならないこともある。そのため「差別」に至る消費者を最大化するには、入り口である「洗剤と言えば○○」という「想起」が何より重要になる。

 花王のファブリックケア事業部の野原聡氏は、「洗濯洗剤は自分の使っている洗剤を“Grab&Go”(つかんで持っていく)、つまりあまり考えずに買う人が多い。そこで無意識下にいる人(=何も考えずに買う人)に再び洗剤を選び直してもらう(=想起してもらう)ためには、『とんでもない洗剤が出た』というインパクトが必要だった」と話す。

花王コンシューマープロダクツ事業部門ファブリックケア事業部の野原聡氏
花王コンシューマープロダクツ事業部門ファブリックケア事業部の野原聡氏

 この結果、イケメン俳優5人が「汚れゼロ、ニオイゼロ、洗剤残りゼロ……」を訴求するテレビCMが企画された。洗濯洗剤のCMイメージを調査すると、例外なく「お母さんが青空の下、白い洗濯物をパンッ!と広げる」というものだった。そこでこれとは真逆の「イケメン5人がほぼ室内で洗濯する」設定を採用した。

OOH広告からSNS投稿を促す仕組み

SNSは「拡散装置」
SNSは「拡散装置」
SNSを「拡散装置」として活用するには、テレビCMとOOH(アウト・オブ・ホーム)広告のクリエイティブに力がないといけない

 アタックZEROの話題を拡散させ、「想起」を大きくするにはSNSの活用も重要だ。野原氏は渋谷ジャックについて、「渋谷にいる人だけでなく、(109の看板などを)見た人がSNSで発信してくれれば全国の人が知ることになる」と、渋谷の発信力に期待した。

 屋外・交通広告などOOH広告からSNSに投稿させる施策は、新宿でも実施した。4月8日から新宿駅ではポスターと並べてCMの衣装やサンプルを展示したり、洗濯機を置いてワンハンドプッシュが体験できるブースを設置したりするなど、SNSへの投稿を促す体験型の広告を用意した。同日からビックロともコラボを実施し、ドラム式洗濯機の脇にアタックZEROを置いたり、店員にサンプルを配ってもらったりした。

新宿駅ではイケメン俳優の巨大ポスター(上)の他、衣装やワンハンドプッシュが体験できるブースを設置した(下)
新宿駅ではイケメン俳優の巨大ポスター(上)の他、衣装やワンハンドプッシュが体験できるブースを設置した(下)

 なお、画像投稿がメインのインスタグラムではインフルエンサーマーケティングを展開。多数のフォロワーを抱えるインフルエンサーに、発売前からハッシュタグ「#洗濯愛してる会」を付けて商品画像とともに投稿してもらった。インフルエンサーの拡散力に加えて、タグなどで検索したときに画面がイケメンだけにならないように工夫した。

 現在、時系列コミュニケーション戦略は、「想起」から「意義」の段階に入っているという。そのためテレビCMは、俳優一人ひとりにアタックZEROの特徴を割り振り、俳優のイメージだけに終わらないよう会話の中身は製品の特徴ばかりにするよう徹底している。例えば、松坂桃李が主役のテレビCMでは常に「ワンハンドプッシュ」が強調されるのだ。

「ワンハンドプッシュ」担当の松坂桃李

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