「ファッションもサブスクへ」。ストライプインターナショナルが人気アイドルグループ欅坂46(現櫻坂46)を起用し、冒頭のメッセージを打ち出した洋服借り放題のサブスクリプション型サービス「メチャカリ」のテレビCMを放送したのは2017年のこと。サブスクという言葉がまだ一般化する前から、あえてキーワードとして打ち出した意欲的な広告でした。日経クロストレンドの記者が解説します。

(写真/Shutterstock)
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 「ファッションもサブスクへ」

 ストライプインターナショナルが人気アイドルグループ欅坂46(現櫻坂46)を起用し、冒頭のメッセージを打ち出した洋服借り放題のサブスクリプション型サービス「メチャカリ」のテレビCMを放送したのは2017年のこと。サブスクという言葉がまだ一般化する前から、あえてキーワードとして打ち出した意欲的な広告でした。

 サブスクリプションはもともと雑誌などの「定期購読」を指す言葉として使われていましたが、そこから転じて「月額制」に代わる新たな用語として広く使われるようになりました。聴き放題の音楽ストリーミングサービスや見放題の動画サービスなどの無形商材からサブスクは広がり、今では酒、家電、自動車など、さまざまな商材をサブスク化した事業が登場。消費者の間でもサブスクという言葉は浸透しました。

 サブスク事業の利点は、土台となる会員数と月間の顧客獲得者数から、売り上げ予測が立てやすく、安定的な収益を上げられることにあります。ですが、それはあくまで顧客がやめないサービスであることが前提。どれだけ会員を獲得しても、解約率が高ければ安定収入は見込めません。サブスクは売って終わりではなく、売ってからが始まり。サブスク事業を成長させるうえで、「客がやめない仕組み」が肝になります。

 デジタルを活用した体験設計で、高い継続率を維持しているサブスク事業者の事例からは、顧客を夢中にさせる仕組みづくりのヒントを得られるはずです。

 また、そうした客がやめない体験設計は、サブスク事業にとどまらず、あらゆる企業にとって必要な概念です。1人の顧客から得られる収益を示す「LTV(顧客生涯価値)」という指標は、すべての企業にとって重要な経営指標になりつつあります。LTV経営を実現するために、大手企業が取り組み始めているのが「カスタマーサクセス」です。

 商品やサービスを購入後に「買ってよかった」という成功に結び付けるためには、売って終わりの従来型の事業モデルだけでは不十分です。デジタル技術を組み合わせることで商品やサービスの価値を拡張させ、より優れた利用体験を提供することを目指し、花王、丸井、キユーピー、りそな銀行などがカスタマーサクセスの専門部署を設置しました。

 花王のカスタマーサクセス部設置は、従来の「モノ主義」の事業モデルから脱却し、「体験主義」のモノづくりへと大きく変革することを宣言するのろしです。同部署を中心に顧客とデジタルでつながり、長期的な関係を築くための体験設計に既に取り組み始めています。

 各社の取り組みの具体例を紹介する記事は、客がやめない仕組みづくりの一助になるはずです。ご一読ください。

客がやめない「成功体験」のつくり方 サブスク継続率95%の秘密


驚異の継続率90%超 英会話サブスク「やめさせない」5つの秘策


JR東「通勤定期×飲食サブスク」の衝撃 月平均27回超のカフェ利用


顧客を夢中にするサブスクの作り方

サブスクの成否を分かつ「5つのポイント」 資生堂、ZOZOも撤退

 「サブスク」という愛称で、すっかり消費者に定着した「サブスクリプション」ビジネス。動画配信サービスやストリーミング音楽配信サービスといったデジタルメディアから勃興した市場は、メーカーや飲食店へと事業領域が広がっている。一方で、撤退する企業も現れている。成否を分かつポイントは大きく5つ挙げられる。本特集ではその失敗を乗り越え、事業を成功に導いた事例と併せて紹介する。


パナソニックの家電×食サブスク 計画比3倍、絶好調のワケ

 パナソニックは、2021年6月に家電と食材を一緒に届ける新種のサブスクリプションサービス「foodable(フーダブル)」を開始した。すでに利用者は計画比の3倍を達成したという。家電メーカーである同社が、なぜ食材とセットで商品を貸し出すサービスを始めたのか?


サブスクで利用額10倍に? データドリブンな異色のサラダ店

 東京を中心に19店舗展開しているチョップドサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS(クリスプ・サラダワークス)」。運営するCRISP(東京・港)は、2021年7月14日からサラダの定期配送型サブスクリプションサービス「CRISP REPLENISH(クリスプ・リプレニッシュ)」の本格展開を始めた。DX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れが目立つ飲食業界にあって、異色のデータドリブン経営を進めるCRISPが目指す姿とは?


大手も続々カスタマーサクセス強化

花王のカスタマーサクセス部を大解剖 成功を導く3つの推進室

 花王は2021年1月にDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略に本腰を入れるために、大幅な組織改編を実施。DX戦略推進センターを新設した。同センター傘下の組織に設置されたのが「カスタマーサクセス部」だ。カスタマーサクセスは花王が、従来の「モノ主義」の事業モデルから「体験主義」へと大転換を図る、DX戦略の重要なピースの1つ。化粧品ブランド「ソフィーナ」や、白髪染め「ブローネ」などで、デジタルを活用したカスタマーサクセスの取り組みを始めている。


丸井やタニタがカスタマーサクセス部設置 LTV経営への転換進む

 BtoB(企業向け)事業者から広まったカスタマーサクセスという新しいマーケティングの概念は大企業にも広まりつつある。丸井グループやタニタといった先進企業は、カスタマーサクセスの専門部署を設置した。カスタマーサクセスという新しい文化を全社的に浸透させ、LTV(顧客生涯価値)経営へと転換を図ろうとしている。


アプリ月間利用率が80% りそな銀行カスタマーサクセス部の挑戦

 りそなホールディングス・りそな銀行は2021年4月1日、銀行業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を目的とした組織改正を実施した。その組織改正により、新設された通称「DX三部」と呼ばれる部署のうちの1つが「カスタマーサクセス部」だ。同部署では、デジタルを通じて顧客と継続的な接点をつくり、そこで得たデータを基に金融サービス利用の顧客体験を向上させる、金融業ならではのカスタマーサクセスに挑む。


プロセス開示で「顧客」を「仲間」に

「プロセスエコノミー」の本質とは 名付け親と著者に聞く

 良いものを作るだけではモノが売れない――。プロセス(過程)から収益を得ることを提案する書籍『プロセスエコノミー』が話題だ。プロセスを公開することで、製品・サービスの信頼性を高めたり、コミュニティーを醸成したりして売り上げアップを図ることもできる。プロセスをどうマーケティングに生かせばよいのか。


顧客1万人が開発に参加するベースフード 1000万食突破の原動力

 ベースフード(東京・目黒)が展開する完全栄養食ブランド「BASE FOOD」は、シリーズ累計販売数が1000万食を突破するなど堅調だ。同社は1万人を超える顧客コミュニティー「BASE FOOD Labo」を運営。同コミュニティーでは会員を研究員と呼び、商品開発プロセスを開示して参加してもらう。2021年6月に発売した完全栄養クッキー「BASE Cookies」もそうして開発された。顧客と共創するものづくりが成長の源泉になっている。


小学館がゆうこすとD2C SNSで開発工程を見せてうさん臭さ払拭

 小学館(東京・千代田)の女性向けファッション誌「CanCam」と、“ゆうこす”で知られるインフルエンサーの菅本裕子氏が共同でプロテインのD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランド「La protein(ラプロテイン)」を立ち上げた。初回販売で用意した「ゆうこすプロデュース プロテインおためしアソートBOX」はすぐに売り切れるほどの好調ぶり。商品開発段階からInstagramで積極的に情報発信して開発に込めた熱量を伝え、信頼を獲得したことが成功のポイントだ。

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