「自動販売機」(自販機)にあなたはどんな思い出がありますか? 暗い夜道、視線の先にほわっと浮かぶ明かりでしょうか。寒い冬、指先を温めるために買い求めた缶コーヒーでしょうか。数字がパカパカ光るだけでちっとも当たらない自販機のルーレットでしょうか。日経クロストレンドの記者が解説します。

(写真/Shutterstock)
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 「自動販売機」(自販機)にあなたはどんな思い出がありますか? 暗い夜道、視線の先にほわっと浮かぶ明かりでしょうか。寒い冬、指先を温めるために買い求めた缶コーヒーでしょうか。数字がパカパカ光るだけでちっとも当たらない自販機のルーレットでしょうか。

 「特にないよ」という方も、きっとなじみはあるはずです。裏を返せば、物心ついた頃から近くにある、ありふれた機械。それが多くの人にとっての自販機でしょう。

 その自販機が今、急激な進化を遂げています。進化のポイントは大きく分けて2つ。まずは技術です。AI(人工知能)やセンサー、カメラを内蔵したり、スマホアプリなど外部ツールと組み合わせたりすることで、商品をただ売るだけではないプラスアルファの機能を持たせています。

 JR東日本ウォータービジネスの自販機は、AIの指示で品ぞろえを見直した結果、比較対象機と比べて最大約40%の売り上げ増に成功。米国から上陸した米ヨーカイエクスプレスのラーメン自販機は、内部で熱々のラーメンを調理するだけでなく、在庫情報やPOS(販売時点情報管理)、KIOSK(売店)機能も一体化しています。

 もう一つの進化ポイントが商品です。つい最近まで、自販機で売るものといえば、清涼飲料水やコーヒー、お菓子、パン、新聞など即時的なもの、価格も数百円程度のものでした。それが今や一気に拡大。数千円するアクセサリーや香水、高級チョコレートまで自販機で購入できるようになっています。自販機で買える婚約指輪なんてものも話題になりました。

 技術とアイデアを組み合わせて、マーケティングに生かす企業もあります。例えば、アクセサリーやコスメ、アート作品を売るPRENO(東京・渋谷)の自販機はAIカメラを内蔵。その映像を分析することで、自販機に注目した人の人数や、年齢、性別と言った属性、服の色などのデータを取ることができます。それを元に、商品ラインアップを検討するといったことも可能です。

 ご存じのように、無人販売自体は「Amazon Go」の登場以来、流通・小売りが注目するトピックでした。そこに新型コロナウイルス感染症拡大で非接触ニーズが加わり、自販機への関心が高まったというのが現状です。

 また、消費者側には自販機だから買ってみたいという心理もあるようです。先に挙げたPRENOでアクセサリーを販売した場合、客単価は4000~5000円。安いものはむしろ売れないとのこと。それなりの価格帯のものを実店舗やネットではなく、自販機で買うから面白いということでしょう。全くタイプの違う商品ですが、昆虫食も同様。「昆虫食ばかりがずらりと並ぶ変な自販機」だからこそ、買ってみたくなる。さらに、それを「買っちゃった」とSNSでアップするところまでが1セットなのかもしれません。

 ECの一般化で、実物を見ずに購入することのハードルはずいぶん低くなりました。さらにコロナ禍で人と接触しないことをポジティブに捉える機運も生まれました。小さなスペースでも設置できて、接客の人件費が必要ない。さらに技術の進歩でどんなものでも販売できる、データも取れるとなれば、自販機の活用度はぐっと高まります。店舗やECと並ぶ小売りのプラットフォームになる日も遠くなさそうです。

 今回は、そんな自販機の最新事例を取り上げた記事を集めました。無人店舗と合わせてお読みいただくと、その面白さや可能性がきっと伝わるはずです。

AIの指示で売り上げ最大約40%増 駅ナカ自販機のAI革命


自販機をアップデートするベンチャー 何でも扱う“屋外デパート”に


D2C商品と好相性「自販機」 無人でアクセサリーも香水も売れる


こんなものも無人で販売

「1坪の靴販売店」羽田空港に登場 10秒計測ジャストフィット

 売り場面積わずか1坪。「世界最小」をうたう靴販売店が、羽田空港に登場した。AR(拡張現実)を使った試着体験と3Dスキャナーによる計測結果を組み合わせ、来店客一人ひとりにぴったりの1足を提案する。在庫を持たずに、無人でも営業できるニューノーマル時代の店づくりを目指し、短期間で修正と実装を繰り返す「アジャイル開発」を取り入れて進化を重ねていた。


コインロッカー介し非接触で受け取り 食品や調剤にも利用拡大

 スマートフォンで解錠・施錠・24時間受け渡しが可能なスマートコインロッカーを提供するスタートアップ、SPACER(スペースアール、東京・中央)が、新市場に乗り出している。施設内の店舗の商品をロッカーで受け取れる小田急本厚木ミロードでのサービスや、ECサイトからのデリバリー利用も視野に入れた駅配サービス「BOPISTA(ボピスタ)」をはじめ、さまざまなサービスを展開する狙いを同社に聞いた。


昆虫食自販機が都内でひそかに増加中 女性向けに特化した商品も

 コオロギやイモムシを食べる“昆虫食”。ゲテモノ扱いされがちだが、世界の食糧危機を救う食材として注目されている。日本では昆虫食の自動販売機が出現。ちょっとした観光スポットとして、食事会などの場を盛り上げるツールとしての需要が多い。女子向けに特化して商品展開するものもある。


ラーメンは自販機が当たり前?

「次世代自販機」が食の流通変える 1分で熱々ラーメン完成

 2021年11月4日発売の「日経トレンディ2021年12月号」では、日経クロストレンドと11月3日に発表した「2022年ヒット予測」を特集。4位に「次世代自販機」を選んだ。コロナ禍でフードデリバリーが爆発的に普及し、食の流通が変化。22年は自動販売機が新勢力になりそうだ。米国から上陸した「Yo-Kai Express」は、注文から約1分で熱々のラーメンが完成。AIカフェロボット「root C」は、指定した時間にいれたてのコーヒーを提供する。新しいイノベーションの自販機が食の流通革命を起こす。


出来たてラーメン自販機「ヨーカイ」、渋谷に登場 CEOに直撃

 ラーメンブームが続く米国から、出来たてのラーメンを買える新機軸の自動販売機が日本に上陸した。その名も「Yo-Kai Express(ヨーカイエクスプレス)」。2021年11月15日、渋谷にオープンした体験型店舗「b8ta Tokyo – Shibuya」に自販機が国内で初めて設置された。開発した米ヨーカイエクスプレスの創業者兼CEO(最高経営責任者)のアンディー・リン氏に話を聞いた。


下町製麺店3代目、逆転のB2C創出術 ラーメン冷凍自販機が急拡大

 創業60年を超える老舗製麺店の丸山製麺(東京・大田)。コロナ禍で倒産危機に陥る中、新規事業としてスタートした冷凍自動販売機によるラーメン販売サービス「ヌードルツアーズ」が急成長を遂げている。仕掛け人である同社3代目の丸山晃司氏に、新規事業立ち上げの苦労と成功の秘密、今後の展望を聞いた。


無人店には2020年から注目

アマゾンに先手、日本で新「無人店」来年ブームに 自販機も進化

 日経トレンディが選んだ「2019年ヒット予測」の4位は「日本版Amazon Go」がランクイン。商品を棚から取ってそのまま店の外へ──。これだけで買い物が済ませられる未来的な買い物シーンが、2019年には日本各地で見られるようになる。


無人コンビニに新たな勝ち筋 売れるのは「百貨店的なモノ」

 オフィス向けの自動販売機型無人コンビニ「600」を展開するスタートアップの600(東京・千代田)が、マンション特化の新サービス「Store600」を2021年4月に始めた。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で在宅時間が増加するのに伴い、外出せずとも手軽に買い物ができる手段の1つとしてニーズが高まっている。マンション特化で見えてきた勝ち筋とは? 半径50メートルの極小商圏を取り巻くニーズを読み解く。


オフィスに無人店舗ミニストップポケット コロナ下でも時短需要

 イオン系コンビニエンスストアのミニストップが2020年9月、オフィス向けの小型無人店舗「MINISTOP POCKET(ミニストップポケット)」の展開を始め、既に80カ所で導入した。従業員がエレベーターで移動しなくてもオフィス内で買い物ができるという「時短」需要を掘り起こす。

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