2021年10月1日に緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が全面解除され、感染リスクと共存する「withコロナ」の中で、経済再生への模索が始まりました。これまで“巣ごもり”していた人々が外出することは、リアル店舗での消費に直結する大きな変化です。そのとき、以前のように漫然と来店を「待つ」のではなく、デジタル接点を活用して移動者と直接つながり、集客する「攻め」の姿勢が求められます。日経クロストレンドの記者が解説します。

(写真/Shutterstock)
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 2021年10月1日に緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が全面解除され、感染リスクと共存する「withコロナ」の中で、経済再生への模索が始まりました。これまで“巣ごもり”していた人々が外出することは、リアル店舗での消費に直結する大きな変化です。そのとき、以前のように漫然と来店を「待つ」のではなく、デジタル接点を活用して移動者と直接つながり、集客する「攻め」の姿勢が求められます。

 魅力的な移動の目的をいかにユーザーへ伝え、目的地までの移動をスムーズにつなげるか。あるいは、移動自体を楽しいものに変えて外出を促し、リアルタイムにアプローチして新たな消費を生み出すか――。

 ちょうど近年は、さまざまな交通手段をスマートフォン1つで検索、予約、決済できるようにする概念「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」に代表されるように、交通プレーヤーのDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、異業種との連携も進めやすい環境が生まれています。全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)がMaaSを成長戦略の1つとして強化し、JR東海とJR西日本も23年夏をめどに新サービス「EX-MaaS(仮称)」を開始する計画など、交通ビッグプレーヤーが相次いで参戦。LINEも本格普及に向けて、プロジェクトを立ち上げています。

 また、JR東日本は飲食店のマーケティング会社、favy(ファビー、東京・新宿)と組み、Suica通勤定期券ユーザー向けに飲食サブスクを組み合わせた「JREパスポート」の実証実験を行いました。その結果、「通常の店舗利用と異なり、JREパスポート利用者は日曜に利用する人が金曜よりも多かった」といい、新たな移動機会が生まれた可能性が示唆されます。今後は本格展開を視野に入れ、フィットネスジムや生花のサブスクなど他のサービスとの連携を強めていく計画で、定期券とのコラボもマーケティングの選択肢の1つになりそうです。

 移動×マーケという視点では、「ポケモンGO」も新たな取り組みを始めています。飲食店や雑貨店など、中小の店や個人店などを支援する「Nianticお店応援プログラム」です。対象店舗に選ばれると、デジタル地図上に自店のジム(レイド)やポケストップを置き、店の紹介文などを載せることができる仕組みで、ポケモンGOプレーヤーの来店を促せます。もともと吉野家やスシローなど、大規模チェーン向けに提供されていた施策ですが、門戸を中小や個人店にも広げており、今後拡大していく計画です。

 このように移動にまつわるデジタル接点の拡大は、新たなマーケティングのチャンスを生みます。そのトレンドは、大きく「(1)移動のエンタメ化」「(2)移動のサブスク化」「(3)移動のシームレス化」という3つに分けられます。特集「MaaS2021:アフターワクチンの移動革命」では具体的な事例を基に詳しく解説していますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

JAL、JR東海もMaaS参戦 宣言解除後の「移動マーケ」3つの新潮流


JR東「通勤定期×飲食サブスク」の衝撃 月平均27回超のカフェ利用


「メタバースは悪夢」 ポケモンGOは現実世界に全集中、移動促す


衝撃の「マイカーゼロ都市」も

衝撃の「マイカーゼロ都市」計画 先進都市は駐車場削減へ向かう

 特集第4回は、米国で進む先進MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の取り組みにフォーカスする。あえて駐車場をなくし、「マイカーゼロ」を志向する新たな都市開発、大規模なMaaSアプリの導入など、米国ではコロナ禍からの経済回復の柱として移動の在り方の見直しが進む。計量計画研究所理事でモビリティデザイナーの牧村和彦氏がリポートする。


パリからクルマが消えた!? withコロナの移動復活の鍵とは

 欧州では、ワクチン接種を進めるのと並行し、“日常”を取り戻すべく、いち早く経済復興に向けた積極的な施策が打たれている。すでにマイクロモビリティなどの利用回数は大きく回復。それに応じて街路空間の有効活用、自動車の速度制限の導入など、人の移動活発化とにぎわい創出に振り切った都市計画にアップデートしている。計量計画研究所理事でモビリティデザイナーの牧村和彦氏がリポートする。


キックスケーター最大手Bird上陸へ 東京・立川が「移動天国」に

 世界で急速に普及が進む電動キックスケーターは、密を避けながら自由に移動できるwithコロナのモビリティとして注目されている。そんな中、2021年10月中をめどに、米国発で電動キックスケーターのシェアリングサービス世界最大手「Bird(バード)」が、東京都立川市に上陸することが分かった。「アフターワクチン時代」の移動をどう変えるのか。


「月5000円乗り放題」の効果は?

「月5000円で乗り放題」の成果は? 交通サブスク、データ初公開

 「月5000円乗り放題」という異色のプランを打ち出したWILLER(ウィラー、大阪市)のオンデマンド乗り合い交通「mobi(モビ)」。サブスクリプションモデルは、利用者の移動を促進できるのか。メディア初公開のデータを基に検証する。


ANAのMaaS新戦略 “空旅”を変える「移動データ」活用の勝ち筋

 新型コロナウイルス禍の移動自粛ムードの中で、旅客数を大きく減らした航空各社。移動需要回復の一手として、本腰を入れているのが地上交通との連係を深めるMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の取り組みだ。そこには航空会社ならではの“勝ち筋”も見えてきた。全日本空輸(ANA)の戦略を追う。


「温泉MaaS」「小売りMaaS」…… LINE活用で進む異業種コラボ

 LINEは2021年5月、マイクロソフトが提供するクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」を活用し、Azureの開発パートナー4社とMaaS普及の共同プロジェクトを開始した。その一環で支援するのが、長野県千曲市の「温泉MaaS」の取り組みだ。LINE上で移動サービスと店舗の連携を実現し、ネットとリアルの融合を図る「小売りMaaS」も構想中。LINEはアフターワクチン時代の移動をどう描くのか。


「リアルタイムマーケ」の最先端

驚異の「リアルタイムマーケティング」とは 来店客別の新手法

 消費者の行動や思考の変化の分析から、マーケティングのアクションまでを一貫してリアルタイムで実施できる仕組みが整いつつある。そうした手法は「リアルタイムマーケティング」と呼ばれる。これに先進的に取り組む1社がアパレルブランドを複数展開するTSI(東京・港)だ。同社は2021年9月16日から、店舗とアプリを連係したOMO(オンラインとオフラインの融合)型リアルタイムマーケティングを始めた。


LINEやJR東がビーコン広告に挑む 「今ここにいる人」にリーチ

 リアルタイムマーケティングを実施するための広告ソリューションのうち、注目なのが「ビーコン(近距離無線通信端末)」の活用だ。LINE、ジェイアール東日本企画(東京・渋谷)、リアル行動データベンチャーのunerry(東京・千代田)が相次いでビーコンを活用した広告商品を展開。ひそかに過熱するビーコン広告の陣取り合戦により、リアルの場とデジタルを連動した広告プラットフォーム市場が形成されつつある。


顧客の目的地にリアルタイム広告で「先回り」 地図アプリの挑戦

 地図サービス開発プラットフォームのマップボックス・ジャパン(東京・港)が広告事業を本格化させる。同社は2021年8月24日、地図サービス事業者7社と共同で地図広告のネットワークを構築すると発表。1年で3000万人の利用者にリーチできるサービスを目指す。地図というフォーマット上、必ずリアルな場所と行動が伴うのが特徴。個人のデータに依存せず、プライバシーを侵害しない手法として、リアルタイムマーケティングの台風の目になりそうだ。

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