新型コロナウイルス感染症の拡大が長引き、この1年で人々の消費行動が大きく変化しました。最も大きな変化の1つが、他人との接触を最小限に抑えるため、消費者の多くがこれまで以上にEC(電子商取引)での買い物を増やしたことです。日経クロストレンドの記者が新トレンドを解説します。

(写真/Shutterstock)
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 新型コロナウイルス感染症の拡大が長引き、この1年で人々の消費行動が大きく変化しました。最も大きな変化の1つが、他人との接触を最小限に抑えるため、消費者の多くがこれまで以上にEC(電子商取引)での買い物を増やしたことです。これは、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためにリアル店舗を当面閉店したからECの売り上げが伸びた、という単純な話にとどまりません。顧客の支持を得る工夫を凝らしたECは、このコロナ禍の中でとりわけ大きな成功を収めています。

 例えば中川政七商店。全国に直営店60店舗を展開しますが、新型コロナウイルスの感染拡大により2020年4~5月の緊急事態宣言の間、全店休業を余儀なくされました。その穴埋め役を果たしたのがEC事業です。休業直後からオンラインショップの利用が増え、20年4月と5月の売り上げは前年比300%で推移。緊急事態宣言解除後も9月が同300%、10月が同250%、12月に入っても同200~300%と飛躍的に伸びました。

 これは、中川政七商店が、EC上でものづくりの背景や作り手の思いを伝えることに注力してきたからこその話。顧客の共感を誘い、同社のファンを増やし、利便性以外の価値を認められたことが売り上げ増につながりました。その結果、19年度にわずか4億円だったECの売り上げは、20年度には3倍の12億円になる見込みです。

 扱う商材を絞り込み、ターゲットとなる顧客に明確なメッセージを提示したECサイトも、想定以上の成果を挙げました。例えば、タイガー魔法瓶はステンレス製ボトル(水筒)、三越伊勢丹は化粧品に特化し、価格以外の魅力を訴求して売上増へとつなげました。

 それだけではありません。コロナ禍の中で、パーソナル化や商品の無料配布、共同購入といった手立てで、商品購入に際して消費者が躊躇(ちゅうちょ)するであろうハードルを引き下げるECも登場しました。いわばECの進化形です。また、ECへの注目度アップを好機と捉え、米中では当たり前になってきたライブコマースを展開するECも増えました。さらに、恒常的に商品を販売しているECではなく、オンラインを使った展示即売会という試みも、多く見られるようになっています。

 2021年もコロナ禍は簡単に収束しそうになく、ECの利用は消費者の間で、新常態(ニューノーマル)の一環として定着しそうです。だからこそ、どうすればECでより大きな成果を得られるのか、最前線の工夫を改めて知っておくことが重要になるはずです。

タイガー魔法瓶 ECサイトでボトルの売れ行き急増のワケ


中川政七商店 コロナ禍でも「不要不急の生活道具」が売れる理由


2事業で100億円へ 三越伊勢丹DXの肝は「自前の高速PDCA」


パーソナル化、無料配布、共同購入……進化するEC

「動く商店街」「未来の私」三井不、オルビスが導く偶然の出合い

 店に来てもらえないのであれば店が行けばいい。三井不動産はそんな逆転の発想で新たなサービスを創出しようとしている。「移動商業店舗」プロジェクトを立ち上げ、飲食から物販、サービスまで「動く店舗」を全国各地に配置する計画だ。オルビスはAI(人工知能)を使った「未来肌シミュレーション」を公開。発想の転換やテクノロジーの活用でセレンディピティーを生み出す試みを紹介する。


アマゾン、楽天を抜いたマーケ戦略 顧客分析の限界を乗り越えたcotta

 菓子やパン材料の通販サイトを運営するcotta(コッタ)は、2020年のマーケティング施策が奏功。30万人を超える新規会員を獲得し、会員数は100万人を突破した。巣ごもり消費拡大の影響も追い風となり、20年9月期の売上高は過去最高となった。極めて順調に見える同社だが、1年半前まで売り上げが伸び悩むも打つ手なしという袋小路に陥っていた。既存顧客のデータを過信するあまり、新規顧客のニーズを見失っていたことが原因だった。


個人間の「つながり」が生む新市場 時代は共同購入EC&デリバリーに

 コロナ禍がもたらした未曽有の社会変化をバネに、2020年新たに立ち上がったビジネスがある。共同購入ECの「カウシェ」(運営はX Asia、東京・渋谷)と、弁当のソーシャルデリバリーサービス「JOY弁」(運営はOffisis、東京・豊島)だ。いずれのサービスも、コロナ禍で重要性が再確認された個人間の「つながり」をベースとしたもので、withコロナ時代の新機軸を打ち出す。


期待が集まるライブコマースの今

アライドとラオックス 中国向け“越境”販促支援サービスが好調

 ソーシャルメディアを中心にデジタルマーケティング支援を手掛けるアライドアーキテクツと、中国の家電量販大手でECも手掛ける「蘇寧易購(Suning.com)」の傘下にある日本の小売り大手、ラオックス(東京・港)との提携が好調に推移している。両社で展開する、中国の消費者相手に“越境”して商売したい日本企業を、クチコミやライブコマースなどを軸に支援するサービスが、想定以上に好評なのだ。両社が強化するそのサービスの特徴をひもといた。


米アマゾンが観光ライブコマース「合羽橋の包丁を品定め即購入」

 米アマゾン・ドット・コムが、オンライン観光にライブコマースを合わせたサービスを試行している。オンラインで観光地を訪ねたり、スキルを磨いたりするサービスの1メニューとして2020年後半に試行を開始し、同年末から米国の一般ユーザー向けに告知を始めた。世界の観光地のバーチャル体験に、アマゾンの強みであるショッピング機能を組み合わせた格好だ。


三井不動産がライブコマースに参入 6施設から半年間で50回超

 三井不動産および三井不動産商業マネジメント(東京・中央)は、三井ショッピングパーク各施設に出店する店舗から商品情報を発信するライブコマースを試験導入した。第1回は2020年12月14日で、配信者はタレントの藤本美貴。以降もタレントやインフルエンサーを配信者に起用したライブ動画を半年にわたって配信していく。


オンライン展示即売会という新手法

ディズニーやビームスも出店 第三の売り場、VR市場の潜在力

 2020年12月19日~21年1月10日の23日間にわたりVR(仮想現実)イベント「バーチャルマーケット5」が開催となった。ウォルト・ディズニー・ジャパン(東京・港)も店舗やECに続く「第三の売り場」として公式ストアを出展。リアルなイベントのオンライン化が進むなか、新たな市場として定着するのか。


阪神名物いか焼きも出展 「バーチャルマーケット」の魅力とは?

 VR(仮想現実)空間上の展示会「バーチャルマーケット5」が2021年1月10日まで開催中だ。これまでは、VRと相性のいいゲームメーカーなどエンターテインメント会社の出展が目立っていたが、最近は百貨店や自動車メーカーなどの出展も増えてきた。バーチャルマーケットの魅力とは何か、主催するHIKKY(ヒッキー、東京・渋谷)のメディア担当 大河原あゆみ氏に聞いた。


アンリアレイジがパリコレファッションを動画で展示 購入も

 ファッションブランド「ANREALAGE」を手掛けるアンリアレイジ(東京・港)は、パロニム(東京・港)が開発した「TIG」と呼ぶインタラクティブ動画技術を活用し、「パリコレ」初のオンライン開催で動画を使った新しい「展示方法」に挑戦した。テクノロジーとファッションの関係をデザイナーの森永邦彦社長に聞いた。

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