5月25日、1都3県と北海道で続いていた新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が解除されました。「第2波」を起こさないように注意しながら経済活動を再始動する「Withコロナ」期がしばらく続きます。一方で、やがてワクチンの開発などによって新型コロナ危機が去る「アフターコロナ」期を迎えても、「決して『コロナ前』に戻るわけではない」という警鐘も耳にするようになりました。そんなWithコロナ/アフターコロナ期に、マーケターは何を意識して商品・サービスや業務プロセスの改革、改善に取り組めばよいのでしょう?日経クロストレンドの記者が解説します。

(写真/Shutterstock)
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 5月25日、1都3県と北海道で続いていた新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が解除されました。「第2波」を起こさないように注意しながら経済活動を再始動する「Withコロナ」期がしばらく続きます。一方で、やがてワクチンの開発などによって新型コロナ危機が去る「アフターコロナ」期を迎えても、「決して『コロナ前』に戻るわけではない」という警鐘も耳にするようになりました。そんなWithコロナ/アフターコロナ期に、マーケターは何を意識して商品・サービスや業務プロセスの改革、改善に取り組めばよいのでしょう?

 日経クロストレンドでは、新型コロナ危機をむしろチャンスに変えたさまざまな企業事例を掲載しています。そんな中でよく読まれている記事の1つが、コンサルティング会社D4DR代表の藤元健太郎氏に寄稿いただき4月17日に公開した「『コロナ前』にはもう引き返せない 未来を読み解く『4つのY』」です。この記事で藤元氏が挙げているのが、「Traceability」(トレーサビリティー、追跡可能性)、「Flexibility」(フレキシビリティー、柔軟性)、「Mixed Reality」(ミックスドリアリティー、複合現実)、「Diversity」(ダイバーシティー、多様性)という「Y」が付く4つのキーワードです。

 日経クロストレンドには、この4つの重要キーワードに当てはまる取り組みをしている企業事例がたくさん登場しています。

【追跡可能性】
 新型コロナ感染拡大局面では、陽性判定者と連絡がつかなくなったり、在庫は十分にあるトイレットペーパーの店頭棚補充に時間がかかったり、特別定額給付金10万円の手続きでオンライン申請のほうがかえって手間になっていたりと、“ひも付け”不備による問題が噴出しました。プライバシーに配慮しつつ、人、モノにIDを付与して「追跡可能」にすることで効率化と最適化を図る余地が大いにあります。

 中国EC最大手のアリババ集団は、従業員の職場復帰に際し、QRコードで会社への出入りを把握したり、食堂が混雑しないようにAIが従業員に食事の時間と場所を通知するなどの対策を取っています。国内でも、職場やテレワークでPC作業をしている従業員の起動アプリケーションをモニタリングすることで、業務量の把握、業務改善につなげている職場が出始めています。

【柔軟性】
 新型コロナ禍で打撃を受けた業種の一つである飲食店は、テイクアウトや宅配に切り替える「柔軟性」が事業継続のカギになりました。飲食店に限らず、単品商売や仕入れ先の一本化などが痛手になるケースが多く、“選択と集中”のリスクが明らかになった感があります。無論、代替措置を取ることでオペレーションが混乱することは避けなければなりません。スマホから注文して店舗で受け取るモバイルオーダーサービスを2月14日から開始した吉野家は、入念にテストを繰り返して全国展開に踏み切りました。

【複合現実】
 緊急事態宣言解除を受けて通勤を再開したマーケターも多いかと思います。それでもテレワークで支障がない業務が明らかになり、打ち合わせや出張は一部オンラインに切り替わっていくでしょう。オンラインとオフラインを融合する「複合現実」は、テレワークのみならず、教育、医療、エンターテインメントの世界にも広がります。

【多様性】
 新型コロナ危機が峠を越えても、地震・台風などの自然災害、バッタ類の大量発生による食糧危機など、不安は尽きません。新型コロナ危機以前から、国内企業も一部で従業員の副業・複業を認めるなど、働き方一つとっても「多様性」が進んでいました。多様性の確保は、危機に際してのサバイバルとして有効に機能します。日清食品ホールディングスと東京大学が開発を進める「培養ステーキ肉」、JR東京駅構内の飲食店から出る廃棄食品を夜勤の職員に販売して食品ロスを削減するベンチャー企業など、従来型の大量生産や効率性の追求とは異なる、多様性確保の取り組みが注目されます。

 日経クロストレンドでは、今後も新型コロナ対応を踏まえた企業事例が多く登場します。この4つのYを意識しながら読んでみると、理解が深まるでしょう。

「コロナ前」にはもう引き返せない 未来を読み解く「4つのY」


新型コロナ対策、従業員10万人の職場復帰でAIをフル活用


テレワークの次は「モニタリング」 働き方改革は次の段階へ


Flexibility=柔軟性●事業、調達、販路の複線化でリスク管理

吉野家のモバイル注文導入が遅れた戦略的理由 伊東常務が明かす

 吉野家ホールディングスは2020年2月、スマートフォンで注文すると店舗で商品を受け取れるモバイルオーダーサービスの全国展開を始めた。17年に開発に着手。19年4月から約1年間の実証実験を経て、ようやくの全国導入だ。なぜそれほど時間をかけたのか。その理由を伊東正明常務が語った。


神戸市、ウーバーと提携して新型コロナで悩む中小飲食店を支援へ

 神戸市は、ウーバー・ジャパン(東京・渋谷)と連携協定を結び、宅配や持ち帰りによる販売機会の拡大を狙う取り組みを、2020年4月13日から始めた。新型コロナウイルスの感染拡大で売り上げが減っている市内の中小飲食店などを支援するため。思惑通りに中小飲食店の売り上げが増えれば、同様の支援策が他の自治体に広がる可能性もある。


衣食住を包む「複合型サブスク」 先手打つANA、東急も実験

 移動手段だけでなく住居や外食、レジャーなども包括する新種の複合型サブスクサービスがここに来て登場している。全日本空輸(ANA)や東急が展開しているものそれ。延長線上にあるのは、全てがサブスク化し衣食住をなんでもまかなえる未来の生活だ。複合型を目指す各社の狙いはどこにあるのか。最前線の様子を追った。


Mixed Reality=複合現実●教育、医療、娯楽も変わる

新型コロナでオンライン診療加速 薬の配送までネットで完結

 新型コロナウイルスの流行により、未曽有の危機が世界を襲っている。こうした中、厚生労働省は2020年2月28日に感染防止策として、慢性疾患などの定期受診患者に対してビデオチャットを用いたオンラインでの診療や電話に基づき、郵送による医薬品の処方を認める事務連絡を行った。対応したサービスが相次いで始まっている。


休校しても教育は止めず! 沸騰する中国のオンライン教育

 全世界で50万人超の感染者を出した新型コロナウイルス。中国各地の教育機関では授業の中止、無期延期を余儀なくされている。猛烈な受験競争にある中国では、休校は日本以上に受験生への影響が大きい。そこで現在、中国国内で再度注目を浴びるのがオンライン教育だ。


アイドルを止めるな! 無観客ライブ、サイン会…ネット配信加速

 開催中止が相次ぐアイドルライブで、オンラインを活用した新たなビジネスの取り組みが加速している。ネットライブはもちろん、ネットサイン会などの有料開催も増えている。ファンとのコミュニケーションを続けるための新たな試みだが、アフターコロナでのプラスアルファの事業につながる可能性もありそうだ。


Diversity=多様性●未曽有の危機への耐性を高める切り札

日清食品が放つ近未来の「謎肉」 培養ステーキ肉は食卓を変えるか

 世界で巻き起こる食分野のイノベーション、「イノベー食」を取り上げる本特集。第3回の今回は、日清食品ホールディングスと東京大学が開発を進める「培養ステーキ肉」を取り上げる。将来的には、近場の培養肉工場から自分好みの“フレッシュミート”が届く世界もあり得る、その技術インパクトに迫る。


JR東京駅の夜勤者を救え 食品ロス1トンを削減したSDGsベンチャー

 JR東日本スタートアッププログラムから生まれた新たなサービスが次々に成果を生み出している。第1回はJR東京駅構内の商業施設「グランスタ」で、食品ロス1トンを削減したベンチャー企業。実は、当初のもくろみとは違うアプローチから生まれたSDGs(持続可能な開発目標)サービスだった。


渋谷が大企業と若きイノベーターの接点に 共創の仕掛け人が語る

 渋谷特集第4回のキーワードは「共創」。再開発が進む中、企業や個人が組織の枠組みを超えて交流する「共創施設」を渋谷に設ける大手企業が相次いでいる。なぜなのか。長年渋谷を拠点とし、共創施設のプロデュースを数多く手がけているロフトワーク代表の林千晶氏に聞いた。

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