人気が高い商品は高額で、人気があまりない商品は低額で販売する――。「ダイナミックプライシング」を導入する企業が少しずつ増えてきました。日経クロストレンドの記者が新トレンドを解説します。

(写真/Shutterstock)
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 振り返ってみると、この仕組み自体は目新しいものではありません。需要と供給のバランスで価格が決まるのは市場原理ですし、古くから「時価」なんて言葉はありました。航空券やホテルの宿泊料は繁忙期に高く、閑散期に安いのが常識です。

 では、ダイナミックプライシングは何が新しいのか。AI(人工知能)が過去の販売実績や現在の販売状況から需要を予測して推奨価格を自動的に算出する、という点です。

 ダイナミックプライシングについて取材を進めていくと、価格決定が従来よりも消費者主導になっている印象を受けました。従来型の価格決定では、需要に応じてとは言いながら、商品を提供する店舗や事業者の狙いや判断で価格が決まっていました。ですがダイナミックプライシングでは、AIという“第三者”が過去や現在の販売実績という消費者行動の客観データを基に、機械的に推奨価格を割り出します。これはあくまで推奨価格であって最終決定権は商品提供者にありますが、それでも消費行動の影響は大きくなります。これからは買値を消費者が決める時代に移るともいえそうです。

 現状、導入が進んでいるのはスポーツやライブなどのチケットや家電の小売りなど、需給バランスの変動が激しい分野ですが、今後は食品など様々な分野に広がる可能性を感じます。

 今、社会的問題になっている食品ロスなども、ダイナミックプライシングである程度解決できるかもしれません。商品提供側としては人気商品はより高く売りつつ、不人気商品は少々値引いても売り切って在庫ロスを減らしたい。一方で、消費者からすれば、少々お金を出しても買いたいものもあれば、そこまで欲しくはないけれど安くなるなら買ってみたいものもあります。その時々で損をしたくない両者にとって、ダイナミックプライシングはメリットが生まれやすいとわかります。

 ただし、注意すべき点もあります。1つは価格の上限をどこまで上げるか。人気だからと価格を上げすぎれば、消費者に「足元を見ている」と思われて信頼を失いかねません。もう1つは、買った後で価格が下がってしまった人をどうケアするか。「損した」と思えば、次からは価格が下がるのを待つため買い控える人も出てくるかもしれません。

 この辺りは、価格を最終的に決める商品提供者の判断ポイントです。先行する企業は既に取り組みを始めています。事例記事をぜひ参考にしてみてください。

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