2019年11月22日、建て替えのために長らく休業していた「渋谷パルコ」が再オープンしました。消費者をワクワクさせるために随所で最新テクノロジーを駆使するなど、まさに未来を先取りした商業施設です。日経クロストレンドの記者が新トレンドを解説します。

 2019年11月22日、建て替えのために長らく休業していた「渋谷パルコ」が再オープンしました。消費者をワクワクさせるために随所で最新テクノロジーを駆使するなど、まさに未来を先取りした商業施設。常に渋谷の情報発信基地だった渋谷パルコですが、昔よく通っていた旧世代に続いて、これから日本のカルチャーを担うデジタルネーティブな若者世代のハートも吸引していくに違いありません。

 個人的なことですが、旧世代の筆者にとって驚きと同時にうれしさをもたらしてくれる店舗を、新生渋谷パルコは1階に誕生させてくれました。「WAVE」がそれです。1983年、セゾングループ傘下でレコードショップとして六本木にオープンしたWAVEは、まさに80年代から90年代にかけて当時の音楽シーンをけん引し続けた存在。現在のちょうど六本木ヒルズの入り口にある「メトロハット」辺りにどーんとそびえ立っていたシルバー色に輝くビルの中は、時代の先頭集団を自負する音楽ファンにとっては“天国”のような場所でした。

 実は筆者は大学時代、1年間だけですが六本木のWAVEでアルバイトをしていたことがあります。ロックやワールドミュージックを扱う3階で毎夜、感度の高い来店客と対峙できたことは、今考えても貴重過ぎる人生経験でした。WAVEのエプロンをしてレジ打ちやレジ締めをしながら、仕入れ担当の先輩社員たちが研ぎ澄まされたアンテナで流行を一から作っていく過程を垣間見る毎日は、ただただ刺激的でした。一緒に働いていた学生の仲間2人といつもつるみ、アルバイトの往復で駆った赤いミニクーパーの車内で、小生意気にも「アシッドジャズってのはだなぁ」などと音楽談義に華を咲かせたものです。

 残念ながら六本木WAVEは99年末、六本木ヒルズにともなう地区の再開発に伴って閉店。その後運営会社の経営権の譲渡が繰り返されるなどし、最終的には2011年にWAVEのほかの店舗もすべてクローズしました。ニュースを耳にしたときには、ちょうどCD生産に陰りが出てきたタイミングだったこともあり、音楽の世界で一時代が終焉(しゅうえん)したのだと、少し悲しい気持ちになったことを覚えています。

 WAVEを復活させた目的について新生渋谷パルコは、「音楽やファッションだけにとどまらない様々なカルチャーミックスをベースにしたTEST HOUSE(実験室)として情報を発信」するためだとホームページ上でうたっています。よく考えてみれば、当時のレコードショップは、モノを買うこと自体よりも、店員との交流の中で自分の感度を磨かれるのではないかとワクワクして通いたくなる場所でした。店舗にとっても同じ高さの目線で小うるさい客と対峙する姿勢で、一緒に文化を紡いでいく実験室のような空気がそこには漂っていたように記憶しています。

 何も六本木WAVEだけでなく、80年代でいえば、渋谷の「CSV渋谷」、南青山の「パイド・パイパー・ハウス」、新宿の「新宿レコード」「UK EDISON」など、それぞれ“キャラ立ち”した魅力で各店は客を引き寄せていました。ただ大量に輸入レコードを並べるだけの米国式の一方向ビジネスから、日本式のレコードカルチャーが生まれつつある瞬間に幸運にも筆者は立ち会うことができました。 きっと渋谷パルコは、その実験室カルチャーを復活させたいのでしょう。WAVE復活が、単なる懐古趣味なビジネスで終わらないことを願ってやみません。

 言うまでもなくデジタルネーティブな若者たちは、共感や体験によって心を動かされる世代です。アナログ時代のレコードショップのごとく、共感や体験をいかに自然に醸成して客にアピールするために、現代ならではのデジタルスパイスで“おいしく”味付けするアイデアで競い合う姿勢が今後求められそうです。日経クロストレンドの記事で、若者の心をつかむヒントをぜひ探してみていただければ幸いです。

ググらない時代、若者に刺さる企業の公式アカウント運用法とは


急成長するeスポーツ テレビを見ない若者にはCMより効果的


台湾茶ブームは終わらない 若者が集うキーワードは「食べ歩き」


今どき若者の心をくすぐるアイデア

今どきの“ググらない”若い女性の情報収集と購買行動

 「若者はネット検索しない」といわれて数年たつが、実際はどうなのか。検索しないのなら、商品の情報取得や購買の導線はどうなっているのか。調査データや取材から、美容系をメインに若者のショッピング事情を分析した。


買いたいのはどっちの青汁? 20代男性はリアルな葉っぱが嫌い

 人気商品のパッケージデザインを調査する本連載。「健康に良いが苦くて飲みにくい」といった印象の青汁のパッケージを検証した。最近は、食生活の改善やダイエット、むくみ防止などの効果を期待して飲む人が増えているという。


「珍味」に若い女性が行列? 新市場を開拓した面白ネーミング

 ネーミングを軸にブランド力を向上させ、売り上げ増を実現する──そんな手法を事例を基に考える特集の第1回。“おじさんの酒の肴”のイメージをガラリと変え、渋谷のヒカリエで大ヒットを飛ばす珍味専門店「ホタルノヒカリ」。珍味の常識を覆す摩訶不思議なネーミングが女性客を魅了した。


新生「渋谷パルコ」の魅力とは

11月オープン新生「渋谷パルコ」 そのカオスな全容とは?

 2016年に一時休業した渋谷パルコ(パート1&3)の再開発事業計画の全容が明らかになった。多様なブランドでファッションを強化し、商業施設の要であるフードも充実させる。劇場や映画館など渋谷パルコの源流ともいえるカルチャー発信にも注力する。


仕掛人が語る新生渋谷パルコ「行くだけで楽しい」カオスな店舗

 再開発によって大変貌を遂げようとしている渋谷に、2019年11月22日新生・渋谷パルコがオープンした。コンセプトは、『世界へ発信する唯一無二の“次世代型商業施設”』。同社執行役で渋谷店店長を務める柏本高志氏にその全貌を聞いた。


新生「渋谷パルコ」分析 目指すは唯一無二の次世代型商業施設

 建て替えで休業していた「渋谷パルコ」が2019年11月22日、3年3カ月ぶりにオープンした。入り口かららせん状に屋上広場へつながる立体街路が印象的な建物で、地下1階から地上9階(10階の一部)の商業フロアに個性的な専門店が193店舗出店。初年度テナント取扱高約200億円を目指す。


この記事をいいね!する