2019年10月にシンガポールで開催された「ITS世界会議2019」には、世界のMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)を牽引するキーパーソンが集まっていました。筆頭は、豊田通商グループが出資している現地シンガポールのモビリティX。同社のMaaSアプリ「Zipster(ジップスター)」は、小田急電鉄が日本で展開する「EMot(エモット)」とも連携する予定です。日経クロストレンドの記者が新トレンドを解説します。

(写真/Shutterstock)
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 2019年10月にシンガポールで開催された「ITS世界会議2019」には、世界のMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)を牽引するキーパーソンが集まっていました。筆頭は、豊田通商グループが出資している現地シンガポールのモビリティX。同社のMaaSアプリ「Zipster(ジップスター)」は、小田急電鉄が日本で展開する「EMot(エモット)」とも連携する予定です。

 モビリティXは、これから定額サブスクリプションモデルに挑戦します。MaaSのサブスクといえば、フィンランドMaaSグローバルの「Whim(ウィム)」で提供する公共交通やタクシー(5キロメートル以内)、自転車シェアリングの乗り放題プランが知られていますが、モビリティXの構想はひと味違います。彼らが注目するのは、ユーザーの「居住エリア」です。例えば、自宅が鉄道駅に近い人なら公共交通中心の乗り放題プラン、鉄道駅から遠いところに住む人にはライドヘイリングやタクシーなどを使いこなせるプランといった具合です。サブスクの組み方を高度化し細分化する流れは、今後日本でMaaSの定額制を実現していく際に参考になるでしょう。

 もう1つ、独ベルリン市交通局(BVG)がローンチした世界最大のMaaSアプリ「Jelbi(ジェルビ)」の“裏方”として活躍するのが、エストニア発のTrafi(トラフィ)です。その技術力は、米ライドヘイリングのLyft(リフト)やグーグルも認め、同社のシステムを活用しているほどです。

 トラフィの担当者をシンガポールで直撃したところ、彼らが見据える世界は、異なる交通モードをアプリで統合することにとどまらない壮大なものでした。MaaSアプリを通じてリアルタイムにユーザーの移動を把握。その上で、道路の渋滞が発生している場合にそれを回避可能な交通モードを選択した人に対してインセンティブを与えるといった運用を考えていると言います。その原資は、交通渋滞を引き起こしているクルマに対する課金です。移動データを適切に解析すれば、どこに交通空白地帯(すなわち新しい交通サービス導入のチャンス)があるかも分かります。こうした一歩先を見据えた取り組みが、日本でも期待されます。

 この他、インドネシア発のデカコーン「Gojek(ゴジェック)」や、日本品質を武器にASEAN MaaSの構築を目指すWILLER(ウィラー)など、注目企業の最新動向を徹底リポートしました。MaaSのビジネスモデルを検討する上で、ヒントになるはずですので、ぜひご一読ください。

【独占】配車サービス「ゴジェック」が東南アジアで成功したワケ


居住エリアに応じたサブスクMaaS提案 モビリティXの仰天構想


ウィラーの「ASEAN MaaS」 シェアバスが日本の地方も救う


日本は遅れている? 世界の最新MaaS

米グーグル、リフトも頼る リトアニア発・謎のMaaS企業に直撃

 欧州のバルト海東部に位置するリトアニア。人口300万人足らずのこの国に、世界のMaaS関係者を驚かせたスタートアップ、Trafi(トラフィ)が本拠を構える。2019年9月に独ベルリン市交通局(BVG)が正式リリースしたMaaSアプリ「Jelbi(イェルビ)」のほか、その技術力は米国の配車サービス大手・リフトも認める。知られざるトラフィの実像を明らかにする。


ゴジェックもMaaSに参入? 「スーパーアプリ」の舞台裏

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MaaSビジネスのヒントは、ここにある

MaaSビジネスで“もうける”黄金律をあぶり出す

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どんな移動でも“マイル”がたまる 米国発MaaSアプリが日本へ

 徒歩や自転車、電車、クルマなど、日々のあらゆる移動手段を自動で判別し、一定数たまると特典と交換可能な“マイル”を付与する斬新なアプリが米国で登場した。マルチモーダルな移動を支援するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の概念にもマッチする仕組みで、注目が集まる。日本でのサービス展開に意欲を見せる、その実力とは?

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