一般消費者にとってARが身近になったのは、2013年に米グーグルが世に送り出したスマートグラス「Google Glass」、もしくは2016年にヒットし社会現象となったアプリ「ポケモンGO」ではないでしょうか。あれから数年が経過し、すっかり市民権を得た存在に昇華したかと言うと、「そんなに生活に役立っているとは思わない」と感じる人は少なくないでしょう。日経クロストレンドの記者が新トレンドを解説します。
AR(拡張現実)の概念を最初に世に知らしめたのは、「オズの魔法使い」の著者として知られる作家ライマン・フランク・ボーム氏なんだそうです。1901年に刊行した小説「マスターキー」(原題はThe Master Key)の中で、現実世界と仮想世界を重ね合わせるシーンを登場させています。
一般消費者にとってARが身近になったのは、2013年に米グーグルが世に送り出したスマートグラス「Google Glass」、もしくは2016年にヒットし社会現象となったアプリ「ポケモンGO」ではないでしょうか。あれから数年が経過し、すっかり市民権を得た存在に昇華したかと言うと、「そんなに生活に役立っているとは思わない」と感じる人は少なくないでしょう。
しかし再びARが脚光を浴びる機運が高まっていることをご存じでしょうか。例年米国調査会社ガートナーは最新テクノロジーがどう社会に普及していくかを示す分析予測「ハイプ・サイクル」を発表しているのですが、先日発表された2019年版に「ARクラウド」という技術トレンドが初めて登場しました。
ハイプサイクルでは、テクノロジーは「黎明期」「過度な期待のピーク期」「幻滅期」「啓蒙活動期」「生産性の安定期」の5フェーズで普及するとしています。ARクラウドは現在黎明期にあり、今後「過度な期待のピーク期」に向けて大きな注目を浴びるはずだとガートナーは見ています。
では、ARクラウドとはいったいなんでしょうか。一言で言うなら、消費者が目で見ている世界の姿や形を3次元でマッピングし、ビルなどの地点ごとに関連する情報とひもづけてクラウド上に一括保管したうえで、様々なサービスで活用できるようにする技術です。古くからITを見てきた読者なら、2009年に登場し話題をさらった「セカイカメラ」に近い概念と言えば分かりやすいかもしれません。
ガートナーはARクラウドの登場によって、「新しいインタラクション・モデルのほか、物理的な空間から収益を生み出す新たなビジネスモデルが実現する」(出典:ガートナーのプレスリリース)と予測しています。一方ARそのものについては、2018年版のハイプ・サイクルで既に「幻滅期」に達したと分析。世の中の関心は薄れたものの、消費者が具体的なメリットを感じるような第2世代、第3世代のサービスを先進企業がリリースする直前のタイミングにあるとしています。
先日、ポケモンGOを共同開発したNianticのVP Asia Pacific Operationの川島優志氏と短い時間ながら立ち話をさせていただく機会がありました。川島氏も、ARを活用しやすくするクラウド基盤の登場によって、今後ARを活用したいと考える企業が急増していくはずだとおっしゃっていました。
小説マスターキーの刊行から、約120年。ARが、SFの世界から現実世界に“降りてくる”日はそう遠くなく訪れそうです。

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