アラブ首長国連邦(UAE)の商業都市ドバイで、急速に規模を拡大している技術開発の拠点「ドバイ・シリコン・オアシス(DSO)」。このエリアには「ドバイ・デジタル・パーク(以下デジタルパーク)」があり、世界中から約3000以上の企業やスタートアップが集まってビジネスを行っている。その中の1社、温泉のエキスを抽出した「クラフト温泉」をひっさげこの地に進出したLe Furo(ルフロ、東京・港)の三田直樹社長を取材した。
中東のウェルネスに日本の温泉で貢献
DSOのデジタルパークは、オフィス、レンタルスペース、レジデンス、レストラン、ホテル、カンファレンスセンターなど8つのビルによって構成されている。快適な環境でビジネスができるよう各種設備も充実。ここに拠点を構える企業の多くはインド、中東諸国が中心だが、日本企業も数社存在している。2022年にドバイに進出し、ショールーム兼オフィスのLe Furo FZE Dubaiを設立したLe Furoもその1社だ。三田直樹社長に話を聞いた。
Le Furoは「温泉を日常に」をキャッチフレーズに、濃縮還元温泉原液「クラフト温泉」を開発した企業。クラフト温泉とは、天然温泉に熟成土と鉱石を混ぜたものに高熱を加え、長時間かけて温泉のエキスを抽出したもの。同社によるといわば「温泉のエスプレッソ」で、これをお湯と混ぜれば温泉と同じ効能が期待できるという。Le Furoはこのクラフト温泉を利用した入浴液やディフューザー、除菌スプレー、飲泉などの商品を販売している。
中南米、ロシア、スペイン、イタリア、ジョージアなど、筆者がこれまで滞在した国の人々には、温泉やお風呂につかる習慣があった。その目的はダイエット、病気の治療、疲労回復など様々。三田氏は日本の温泉を資源と捉えており、それを供給することで世界中の人々の健康維持に貢献したいと考えている。
Le Furoが初の海外拠点に定めたドバイや中東エリアには、昔こそトルコやシリアなどで「ハマム」と呼ばれる浴場があったが、現在は日常生活で湯船につかる習慣はない。砂漠地帯で水は貴重な資源であるため、ぜいたくに使用するのは難しい。
三田氏がドバイに拠点を置いたきっかけは、東京都港区の西麻布にあるスパに通っていたサウジアラビア出身の留学生の存在だった。日本で温泉の効能に魅了された彼女の勧めで、中東でのビジネス展開に興味を持ったという。
とはいえ、中東の人々の生活に入浴習慣を根付かせるのは困難で、温泉を運ぶこともできない。そこで三田氏が考えたのが、温泉を飲む「飲泉」だった。飲泉自体は昔から世界各地で行われてきた民間療法だ。日本でも持統天皇の御代に行われていた記述が日本書紀に残っている。また、欧州では古代ギリシャ人やその文化を継いだ古代ローマ人が入浴と同時に飲泉を行ってきた歴史がある。ミネラルがバランスよく含まれた質の高い日本の温泉で、彼らの健康を維持しようというわけだ。
そこで三田氏が着目したのが中東の人々の肥満問題だ。中東では年々、肥満率が増加傾向にあり、UAE、カタール、サウジアラビアなどの肥満率はほぼ30%を超えている。肥満やそれに伴う糖尿病は大きな社会課題の一つとなっている。ミネラルやビタミンは、肥満の原因となる炭水化物、脂肪、タンパク質を代謝する役割を担う重要な副栄養素。不足したミネラル分を飲泉で補ってもらい、肥満や生活習慣病の改善に役立ててほしいと三田氏は考えている。
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