ポルトガル領マデイラ島――欧州の人たちにとってはバカンスの場として人気のある大西洋の孤島だ。そんなリゾート地で、古くからある“漁師の酒”が観光客や現地の若い世代に絶大な人気を博している。きっかけは約30年前に始まった観光プロモーションだという。現地を取材した。
無人島から大西洋の真珠と呼ばれる観光地へ
2022年4月、新型コロナウイルスの感染拡大による渡航制限が解除され、観光客の受け入れを再開したポルトガル。同国は日本に初めて西洋の文化をもたらした国であり、歴史的にも最も関係の深い国の一つである。15~17世紀の大航海時代に、スペインと並んで世界にその名をはせた国としても知られるが、現在はどうなっているのか興味があった。
今回筆者が定住先に選んだのは、ポルトガル領のマデイラ島。首都リスボンの南西、約1000キロメートル先にある大西洋の孤島だ。島から650キロメートルほど東にはモロッコがある。ジェノバ商人だったコロンブスが砂糖交易でマデイラ島に滞在し、隣島のポルト・サント島の女性と結婚したというのは、現地ではよく知られた話である。
“樹木”を意味するマデイラ島は、1425年に入植が開始された当時、その名のごとく人が立ち入れないほどの森林で覆われていた。同島はポルトガルが初めて本土以外で入植した土地でもあり、ここで実施したことが後にブラジルなど他の海外領土でも行われるようになった。無人島だったこの地で、小麦、雑穀、サトウキビ、ブドウの栽培が行われ、特にサトウキビ栽培は島に大きな利益をもたらした。
マデイラ島が海外から注目されるようになったきっかけは、18世紀後半に肺結核患者の療養地として知られるようになったこと。療養目的の観光客が増加し、1930年代には観光協会が国内外のジャーナリストを島へ招へい。彼らによってマデイラ島の自然、温暖な気候や過ごしやすさが世に広まった。
面積は奄美大島ほどの小さな島だが、国内外のおよそ40都市から直行便が就航している。2022年の秋には、フィンランド航空がヘルシンキからの直行便を就航予定だ。空港の正式名は、世界的に名の知れたマデイラ島出身のサッカー選手にちなんで、クリスティアーノ・ロナウド・マデイラ国際空港となっている。
コロナ禍以前、マデイラ島には年間850万人の観光客が訪れていた。ポルトガルの総人口約1030万人に近い人たちが、毎年この小さな島を訪れていたことになる。パンデミックが広がり始めると、すぐに空港を封鎖。街はロックダウンなどの措置がとられていたが、22年6月中旬現在、公共交通機関以外の場所でのマスク着用義務は解除され、観光客も戻りつつある。
マデイラ島を訪れる観光客の多くは、フランス人、ドイツ人、北欧諸国の人たちだ。彼らにとって年中温暖で過ごしやすいこの島は、日本でいうハワイのような位置付けとなっている。観光客の平均滞在期間は4.4日。民泊仲介のAirbnb(エアビーアンドビー)を活用したり、アパートメントを長期レンタルしたりして過ごす人たちも多く、空き家を活用したビジネスをしている現地の人も多い。また島内には130件以上のホテルがあり、そのうち80%が4つ星以上だ。
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