国土のほとんどが北極圏に位置する世界最大の島デンマーク領グリーンランドでは、地球温暖化が現地の人々の日常生活に大きな悪影響をもたらしている。中でも深刻なのが住宅だ。気候の急変によって家屋の劣化が進み、これまでの建築スタイルでは対応できなくなっている。現地で起こっている住宅の問題とその対策を取材した。
住宅建設費が高いグリーンランド
人々の大半が暮らすグリーンランド沿岸部の土地は、硬い岩と凍った泥土で構成されており、地下の氷が夏に解けて地盤がへこみ、冬に凍って盛り上がるという特性がある。ここ20年間は地球温暖化の影響で、これまで水平に保たれていた道路などに大きなひずみが生じているという。
グリーンランドの土地は政府の管理下に置かれているため、個人では売買できない。家を建てる際は政府に申請し、指定された建設可能な土地に建てる。土地代はかからないが、住宅建設にかかる費用は高額だ。使用する資材などは全てデンマーク経由の輸入品で、家族4人が暮らせる一般的な一軒家の場合、平均約324万デンマーククローネ(約5580万円)の費用がかかる。そのため、複数人で共同出資をして建物を所有し、かかる費用の33%(イルリサットの場合)を政府の資金補助でカバーする協同組合住宅という方法を取る人が多い。
筆者が滞在するグリーンランド第3の都市・イルリサットにあるダーヴィセンさんの家は、外壁が鮮やかなブルーに塗られたグリーンランドでは一般的な木造住宅だ。この外壁は政府から指定された色にしなければならず、好みの色に塗り替えることは禁止されている。イルリサットには漁師や猟をする人が多いため、天気や海、波の様子を家からすぐ察知できるように、海側に窓を設けている家が多い。海は家の西側にあるので、この窓から毎日夕日を眺めていると、太陽の沈む位置が日に日に南へ移動しているのがよく分かる。また昼間が晴天であれば、夜になると必ずと言っていいほど見事なオーロラが頭上を舞う。
グリーンランドでは、土の上ではなく岩の上に家を建てる。季節の変化により永久凍土の表層が融解することで土地が上下し、地盤の水平を保てないからだ。高さと均衡を調整するため、土台となる1階部分は物置として使われることが多い。屋根には軽量で耐久性のあるアスファルトシングル材が使われており、室内は太陽光を取り入れやすいように大きな窓がいくつも設けられている。内部はインテリアとしてクジラの骨やイッカクの牙などの置物が飾られている以外は、機能的なシステムキッチンやシンプルな家具などが備わった、いかにも日本のインテリア雑誌に登場しそうな北欧風の内装である。
近年の急速な温暖化で、こうした家屋にもいくつか変化が表れている。ここ数年、雨がよく降り、嵐も頻繁にやって来るようになった。そのため木造の外壁が傷みやすくなって張り替える必要が出てきたり、湿気で家の中にカビが生えたりするようになった。湿気がこもらないようにするには、1日に2回、15分以上の換気が必要で、特にバスルームなどは常に窓の一部を開けておかなくてはならなくなったのだそうだ。
2021年8月はグリーンランド北部で観測史上最高気温の23.4度が観測され、平均気温は例年を10度以上も上回る暑い夏となった。夏の気温上昇の影響で、ここ2~3年で多くの家がエアコンを取り付けるようになっている。夏場の外気温は20度前後とそれほど高温でなくても、大きな窓から差し込む太陽光の熱で、室内はあっという間に高温になるからだ。さらに暑さや湿気に慣れていないグリーンランドの人々にとっては、夏の気温上昇は体への大きな負担となる。
21年の夏は雨がたくさん降り、嵐も激しかったという。そのため、その時期に収穫したきのこや魚などを乾燥させて保存することができなかったそうだ。8月末には初雪が降り、現地の人は「初雪が早く降る年は冬が来るのが遅くなる」と嘆いている。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー