ここ数年、日本はたび重なる大雨による被害に見舞われ、異常気象や地球温暖化を身近な問題として感じることが多くなった。今回、筆者が現地の家庭に滞在してその暮らしを伝える「定住旅行」を敢行したデンマーク領グリーンランドも、そうした気候の影響が顕著に表れている地域の1つだ。現地の人々に重くのしかかる地球温暖化の影響とは……。
グリーンランドで急速に進む氷床の減少
日本の約6倍の面積を持つ世界最大の島・グリーンランドは、その大半が北極圏に属している。人口は約5万6000人で、居住しているのはほとんど沿岸部のみ。土地の約79%は、氷床(氷塊)と万年雪で覆われている。
その氷が猛スピードで解け始めている。グリーンランドの氷が全て解ければ、地球の海面が7.4メートル以上上昇するといわれている。デンマークの気象協会などが運営するサイト「Polar Portal(ポーラーポータル)」によると、2021年7月末の調査では1日に融解した氷は約80億トンに上り、例年の2倍以上の速さだという。また21年8月14日には、南東部の3000メートルを超える山頂でグリーンランド観測史上初めて雨が降ったことでも話題となった。
筆者は当初、グリーンランドへの渡航を20年春に予定していたが、新型コロナウイルス感染症流行の影響で延期に。その間も、刻一刻とグリーンランドの自然や環境は悪化している。1日でも早く現地を訪れなければという思いがあり、21年10月、渡航に踏み切った。
ちなみに21年11月29日現在、グリーンランドの新型コロナ感染症の累計感染者は1311人、死者は0人。グリーンランド政府は21年春まで外国人に対しての入国規制をかけていたが、ワクチンの普及に伴い徐々に緩和。10月1日には入国人数制限を完全に撤廃し、旅客機のフライトスケジュールも通常運航に戻した。現在はワクチン接種証明書、北欧諸国で行った72時間以内のPCR陰性証明書などを提出すれば、入国後の隔離なしで自由に行動できる。
筆者が滞在したのは、グリーンランド西部にある第3の都市イルリサットという人口4769人の町。イルリサットとはグリーンランド語で「大きな氷河」の意味で、世界遺産「イルリサット・アイスフィヨルド」があることで知られる。その雄大な風景を目当てに毎年春から夏にかけて多くの観光客が訪れる。またこのフィヨルドから生まれた氷山は、あのタイタニック号を沈めたことでも有名だ。氷山は1日に19メートルも移動し、その速さは世界最速といわれている。19年にオープンしたアイス・フィヨルド・センターでは、気候変動による氷河の変化やイルリサット氷河の歴史を知ることができる。
イルリサットではこれまで新型コロナウイルスの感染者が確認されたケースはまだ一度もない。住民のほとんどがワクチン接種を8月の段階で終えている。そうしたこともあり、10月以降は欧州からの観光客が一気に押し寄せ、同月8日にはデンマーク女王のマルグレーテ2世女王陛下もこの町を訪問した。
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