レストランやホテルなどで売れ残った食品が販売価格の半額以下で手に入るということで、スペインの若者たちの間で流行しているアプリがある。食品ロス解消を目指して2016年にデンマークで誕生した「Too Good To Go」だ。スペインの食品ロス事情とサービスを利用した様子を紹介する。

食品ロスを削減するサービス「Too Good To Go」。スペインでも若者を中心に利用者が増えている
食品ロスを削減するサービス「Too Good To Go」。スペインでも若者を中心に利用者が増えている

スペインの食品廃棄は欧州7位

 Too Good To Goのサービスは2020年2月現在、欧州14カ国で展開され、ユーザー数は2000万人を超え、3万9000軒以上のレストラン、ホテル、果物屋、パン屋、お菓子屋、スーパーが登録している。スペインでサービスが始まったのは18年9月。今や社会階層を問わず100万人以上が日常的にこのサービスを利用しており、登録店舗数も2500軒に上る。その結果、開始からわずか1年余りで約60万食のロスが防げたという。

 スペインでの主な利用者は25~40歳。ユーザー登録や利用料金は無料。食品を提供する施設側から支払われる手数料がToo Good To Goの収益源だ。食品は大体が通常販売価格の66%オフで購入できる。言うまでもなく利用者の大半は環境問題意識の高い人。それに加えて、良いものを安く買えるからという理由で利用している人も多い。

 SDGs(持続可能な開発目標)の「目標12:つくる責任つかう責任」で、解決目標の一つとして掲げられている食品ロス。食品ロスとは「まだ食べられるのに捨てられてしまう食品」のこと。国際連合食糧農業機関(FAO)が11年に発表した報告によると、世界では年間約13億トンの食品ロスがある。二酸化炭素(CO2)排出量に換算にすると推定33億トンで、全世界の約10%を占めるほど影響が大きい。

 以前から欧州では食品ロスに対する注目度は高い。しかし意外にもスペインの食品ロスは年間約770万トンもあり(Too Good To Go調べ・18年)、日本の約643万トン(環境省・16年推計)に比べて多い。確かにスペイン人と食事をすると、日本人のように全部残さず食べることを美徳とする習慣に乏しいためか、外食でも家庭でも食事を残すことが頻繁にあるように感じる。

 その一方で、若い世代は環境問題に敏感な人も多い。Too Good To Goが掲げる思想は、そうした層の共感を得てヒットしているのではないだろうか。日本でもSHIFFT(東京・豊島)の「Reduce GO」やコークッキング(東京・港)の「TABETE」といった食品ロスの削減を狙ったアプリがあるが、Too Good To Goはその先駆けともいえるだろう。

Too Good To Goでスペインのすしを注文

 スペインの首都マドリードで実際にアプリを使用して商品を購入してみた。利用方法はシンプルで、アプリをダウンロードして住所登録すると、その位置から徒歩圏内のお店が表示される。店舗の場所が遠ければ、車や交通機関を使用することになり、環境に配慮することができないため、表示されている中から食べたい種類の食品や食事を提供している店舗を選び、ネット上で決済。指定された時間帯にその店舗へ行けば、持ち帰りで受け取れる。

アプリに表示された画面から食材ジャンルと店舗を選ぶ
アプリに表示された画面から食材ジャンルと店舗を選ぶ
購入後に表示される画面には、「これはサプライズバッグで、中身は日によって異なります。アレルギーのある方はお店にご相談ください」と記載されている
購入後に表示される画面には、「これはサプライズバッグで、中身は日によって異なります。アレルギーのある方はお店にご相談ください」と記載されている

 私が注文したのは、滞在地から1キロメートルほどの場所にある「WOK GARDEN」というすし屋。レストランの評価レートも、星5個中4.1と非常に高いレストランだ。通常12ユーロ(約1500円)で販売している商品が3.99ユーロ(約500円)で販売されていた。

WOK GARDENはオフィス街にあるオシャレなレストラン
WOK GARDENはオフィス街にあるオシャレなレストラン

 到着してアプリを提示すると、持ち帰り用の食品保存容器を渡された。この店舗はすしと中華料理のビュッフェ形式になっており、ランチタイムが終わったばかりでお客もまばらだった。結果、高額な握りずし以外の商品も持ち帰ることができた。2つ購入していたので1つにすし、もう1つには中華料理を詰め込むと結構なボリュームになった。店舗によっては、事前に商品を組み合わせて梱包しているケースもあるそうで、それらは「マジックボックス」と呼ばれている。

店内のビュッフェから好きな食材を食品保存容器に入れて持ち帰る
店内のビュッフェから好きな食材を食品保存容器に入れて持ち帰る
2つ7.98ユーロ(約950円)でも結構なボリューム
2つ7.98ユーロ(約950円)でも結構なボリューム

もうからなくても構わない

 WOK GARDENを経営しているのは中国人のアンティさん。Too Good To Goを利用している理由などを伺った。

 アンティさんがこのサービスを導入したのは19年7月。店舗にToo Good To Goで働く女性がシステムの説明に来たのがきっかけだそうだ。毎日約10食分を提供しているが、Too Good To Goによる収益はほぼ“無い”に等しい。それでも利用するのは「食べ物を捨てることに罪悪感があるから」という理由だった。

 「特に環境に配慮して始めたわけではない。この辺りはオフィス街で、ランチを食べ損ねた会社員たちが利用している。味を知ってもらうことで多少の宣伝にはなるかもしれないが、店舗側は食品保存容器や箸などの備品、人件費、商品を提供しなければならず、Too Good To Goで提供している値段とでは釣り合いが取れない。それでも作った食材を捨てるということにとても抵抗を感じるため、それなら持って帰ってもらったほうがいいと考えている」(アンティさん)

 実際に利用して気になったのは、アプリに表示される店舗数があまり多くなく、利用できるエリアに差がある点だ。週末は余り物自体が少ないのか、利用可能な店舗がほとんど見つからない。平日でも前日に注文しておかなければ当日購入するのが難しかった。

 しかし商品状態は良好だ。味が良く、この値段で食べられるのは満足度が高い。他国では持ち帰り時の袋を紙バッグにしているらしいが、私が行った店舗は食品保存容器や袋がプラスチック製で、この点は少し残念。環境への配慮を考えると、プラスチック製品の代替品を取り入れることも大切なマーケティング活動だろう。

Too Good To Goの使命と米国展開

 Too Good To Goのミッションは世の中の食品ロスを無くすことで、「アプリはその道具の一つにすぎない」と同社スペイン法人でマーケティングを担当するカルロス・ガルシア氏は話す。アプリからも食品ロスや飢餓問題に携わるNGO団体などへ直接寄付できるようにしている他、小中学校や大学などで食品ロスにまつわる講義をしたり、大学の研究機関や役所などと協力して、データ収集などを行ったりしている。さらに欧州全土だけではなく、米国展開の準備を整えているという。

 日本でも消費者がサービスを利用したり物を買ったりするとき、その会社が環境に対してどのような視点を持ち、実際にどんな取り組みをしているかが重要になりつつある。Too Good To Goのような企業の思想に賛同し、サービスを導入しているかどうかも指標の一つとなるに違いない。

Too Good To Goの最高経営責任者(CEO)のMette Lykke氏。デンマークの起業家で16年に同社CEOに
Too Good To Goの最高経営責任者(CEO)のMette Lykke氏。デンマークの起業家で16年に同社CEOに
Too Good To GoスペインカントリーマネジャーのOriol Reull氏
Too Good To GoスペインカントリーマネジャーのOriol Reull氏

(写真/ERIKO、写真提供/Too Good To Go)

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