単にプラスチックを紙に置き換えるのではない

 「パッケージ業界のオスカー」といわれているWorld Packaging Organization。17年にウィーンで開催された大会で見事「Worldstar Winners 2017」を受賞したのが、ソエムズが開発した紙製のレタスカップだ。

World Packaging Organizationのウィーン大会で「Worldstar Winners賞」を受賞したレタスカップ
World Packaging Organizationのウィーン大会で「Worldstar Winners賞」を受賞したレタスカップ

 水耕栽培の葉物野菜はこれまで市場に納める段階で、パッケージが潰れたりダメージを負ったりしてしまっていた。しかし同社のカップは、運送してそのまま店頭に並べることが可能でダメージが少ないのが特徴だ。また、サラダ菜が育つ60日間にバクテリアが発生しないように工夫されている。ロシアのアグロホールディング・モスクバスキーやフィンランドのファミリーオイなど葉物野菜を生産している各国の大手会社に納めている他、ドイツ、ハンガリー、ブルガリアなどにも輸出している。

 ロシアで生産しているドイツのハースや、ユニリーバ、ロレアル、P&Gからもトレーの受注を受けている。ソエムズの仕事は、発注を受けてプラスチックから単純にパルプモールドに包装を置き換えるだけではない。店頭に商品を陳列した際の見栄えや、従業員が並べる際の負荷軽減、輸送コストの削減など、さまざまなことを考慮してアイデアを提示するのが特徴だ。それらに関係するデザイナー、科学者、研究者もソエムズが独自に抱えている。

ソエムズの商品はヨーロッパを中心に賞を受賞している
ソエムズの商品はヨーロッパを中心に賞を受賞している
ロシアの「PART Award 2018」を受賞したP&Gのシャンプーのパッケージ
ロシアの「PART Award 2018」を受賞したP&Gのシャンプーのパッケージ

 コンドラチェフ氏はパルプモールドの包装材の需要が高まっている背景に、若者のマインドの変化があると見る。

 「プラスチック包装は安いので経済合理性はあるが、ロシアの若者は私たちと異なる価値観で物事を考えている。プラスチックの原料は石油だが、若者たちは石油に対して拒否反応を示している。石油は昔から国同士の争いを引き起こす元になってきたため、そうしたものを極力排除しようとするマインドを持っているのだ。石油などの炭化水素資源は一度採ってしまうと、地球がそれを作り出すのに何百年という月日がかかる。しかし木材であれば、それよりも短い期間で再生可能だ。そういうものにシフトしていくべきだという意識を持っている世代が育ってきているように感じる」

 さらに同氏はこう続ける。

 「現在は国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)のポリシーを意識している大手企業が増えている。そうしたムーブメントも後押しして、時代と我々の製品に対する需要がかみ合ってきているようだ。今後5年の間に、新たに2~3つ工場をつくるほどの需要があると考えている」

日本にパルプモールドが普及する日は来るか

 ソエムズの第一工場にある4つのラインの稼働率は2年目で100%に達した。日々受注が増えているため、生産設備を増強すべくもう1つのラインを建設中だ。現在第一ラインでは、月間170~180トンの紙をリサイクルしており、新しいラインができればさらに500トンのリサイクルが可能になる。

現在建設中のソエムズ第二工場
現在建設中のソエムズ第二工場

 20年には東京オリンピックが開催され、多くの外国人が日本へやって来る。日本がこれまでのようにプラスチックを多く使用していると、とても環境に配慮した国だとは思ってもらえないだろう。

 日本でもパルプモールド素材の製品がプラスチックの代用として使用されるようになればうれしいが、さまざまな要因から普及には多くの課題があると考えられる。

 日本でのパルプモールドの製造は、ロシアと比べると2~2.5倍のコストがかかるといわれている。その理由の1つがプラスチックの生産工場は広い土地がいらないのに対し、パルプモールドの生産には広い土地が必要になる点。日本ではほとんどの食品会社がPL(Positive List)の証明が付いたパッケージを使用しているため、パルプモールド素材のパッケージもPL認証されなければ普及に拍車は掛からないだろう。

 しかし東京オリンピックがきっかけとなって、国や企業、国民が環境を再考し、新しいソリューションを生み出すいい機会になることを願いたい。

日本の“カイゼン”を取り入れ、工場内での作業も効率化している
日本の“カイゼン”を取り入れ、工場内での作業も効率化している

(写真/ERIKO)