AI部門でマーケットを広げる「インノダータ」

 イノポリスには現在約80社のIT企業があり、米IBMやロシアのヤンデックス、ズベルバンクなど11社の大手スポンサーとパートナーシップを結んでいる。そこで今回、AI市場でさまざまなビジネスを展開しているインノダータ(Innodata)社を訪ねた。

 インノダータは2年前に設立された会社で、想定した事業計画の2倍の速度で成長している。ロシア最大の航空会社であるアエロフロートも彼らの顧客の1社だ。具体的にどんな事業を展開しているのか、開発事業部マネージャーのイサフ・ガリウリン氏に話を聞いた。

 「我々のAI事業は多岐にわたるが、ベースはデータ分析だ。例えば航空会社で実際に行っているのが、利用客がSNSで発信するコメントを集めたテキスト解析だ。これによってニーズを把握したり、社内人事に反映させたりしてサービスの向上を図る。また、飛行機の状態をAIで分析して故障を察知する修理システムなども導入している。今後はAIを使った農業テクノロジーのプロジェクトを手掛ける予定だ。ドローンとAIを駆使して土壌状態のチェックや病気の察知をし、異常が見つかれば適切な農薬を自動投与するシステムを開発している。こうした新規事業や革新的なプロジェクトは、イノポリス大学の学生の協力や異業種とのミートアップイベントによる部分が大きい」

インノダータ開発事業部マネージャーのイサフ・ガリウリン氏
インノダータ開発事業部マネージャーのイサフ・ガリウリン氏

日本企業がロシアで主導するブロックチェーン技術

 イノポリスには画期的な開発で躍進を続ける日本企業も進出している。ブロックチェーンテクノロジー開発を行っているソラミツ(東京・渋谷)だ。同社は開発規模の拡大に伴い、外国人のエンジニアを探していたところ、多くの優秀なエンジニアを送出しているイノポリスにたどり着いた。現在、現地で約50人のロシア人エンジニアたちが日々開発に励んでいる。

エンジニアたちが働くソラミツのオフィス
エンジニアたちが働くソラミツのオフィス

 Co-CEO(共同最高経営責任者)の武宮誠氏は米国育ちで日本に帰化した、日本文化をこよなく愛する人物だ。武宮氏の狙いはブロックチェーンを使って、社会課題を解決すること。ブロックチェーンによって支えられているビットコインは、一部の人に富が集中するマネーゲームの側面があり、多くの電力が消費されるなど、地球資源が有効利用されていない点を危惧している。

 ソラミツの技術開発レベルの評価は高い。16年にリナックスファウンデーションがブロックチェーンの世界の標準を目指す(ハイパーレジャー)ためのコンソーシアムにおいて行った開発競争で、200社以上の名だたる世界企業の中から3番目に優れた技術として選ばれた。ソラミツロシアCEOを務めるカミール・サラヒエブ氏は、イノポリス大学の卒業生で、CTO(最高技術責任者)のアレス・ジブコビック氏は、かつてイノポリス大学で教壇に立っていた。

ソラミツロシアのカミール・サラヒエブCEO。日本語が好きでプライベートで学校に通っている
ソラミツロシアのカミール・サラヒエブCEO。日本語が好きでプライベートで学校に通っている

 ソラミツが展開するプロジェクトは着々と実用化の道をたどっている。カンボジアの中央銀行が国の決済をブロックチェーン化するプロジェクトや、インドネシアのBCA(Bank Central Asia)のブロックチェーンを使った本人確認システムのテスト運用などにソラミツの技術が使われている。またロシアの証券取引所グループNSD(National Settlement Depository)と合弁会社を作り、証券取引所向けの新しいブロックチェーンシステムが最終テスト段階に入っており、本格稼働間近だという。

 新たな仮想通貨を発行するプロジェクトも進行中だ。「SORA」と呼ばれる仮想通貨を使って、もの作りやエコ活動、ボランティアなどに投資できるアプリを開発した。投資先は地球にとって有意義で、経済発展につながる案件が選ばれている。

 ソラミツの目標は「Trusted Internet(信用できるインターネット)を作る」こと。プラットフォーマーが全てを手にする中央集権的なネットビジネスの在り方が問題視され始めた今、分散型のブロックチェーンに対する注目が高まっている。ブロックチェーンが次世代のインターネットを作り、新たな産業を生む日は近いのかもしれない。ソラミツが生み出していく、ロシアと日本の“合作”に期待したい。

(写真/ERIKO)