現地の一般家庭に滞在し、生活や文化を体験しながら世界を渡り歩く「定住旅行家」のERIKOが、なじみのない国や地域の知られざるビジネス事情をリポート。これまで48カ国、101の家族と暮らした彼女が49カ国目の定住地に選んだのはロシア内のカルムイク共和国。その精肉会社を直撃した。

カルムイク共和国のイバノブズダニル社で販売している羊肉
カルムイク共和国のイバノブズダニル社で販売している羊肉

欧州唯一の仏教国、移住と離散を繰り返した悲劇の歴史

 ロシアと聞いて何を思い浮かべるか。プーチン大統領、北方領土問題、サッカーW杯、冬の寒さなど、ある程度イメージは浮かんでも、具体的に分かりにくいのが本音だろう。世界地図で一番の存在感を放つロシアは、広大な領土内に22の共和国を抱える。その中に仏教を信仰する国が3カ国。ブリヤート共和国、トゥバ共和国、そして今回の定住先に選んだカルムイク共和国だ。

 カスピ海の北西に位置するカルムイク共和国は、欧州唯一の仏教国である。面積は北海道よりやや小さめで、ベルギーやスイスよりは少し大きい。そこに約30万人が暮らしている。首都エリスタの中心部には大きなパゴダ(仏塔)があり、その公園内には祖母がカルムイク人だったというレーニン像が建っている。カルムイク人にとってウラジーミル・レーニンは非常に親みのある人物だ。

欧州最大の仏像がある釈迦牟尼仏黄金僧院
欧州最大の仏像がある釈迦牟尼仏黄金僧院

 カルムイク共和国に隣接するダゲスタン共和国、チェチェン共和国はイスラム教を信仰している。なぜカルムイクだけが仏教国なのか。同国観光庁の情報によると、カルムイクに住む人々は、現在の中国・新疆ウイグル自治区のチベット仏教を信仰するモンゴル系の遊牧民たちの子孫である。民族間の争いを避ける間にロシア人と接触し、現在の地域に住み着くようになったそうだ。

 ヨシフ・スターリンが旧ソ連の最高指導者だった時代、共産主義のイデオロギーにより無神論を標榜した。各宗教に対する抑圧を行い、寺院は破壊され、カルムイクの文化や遊牧の生活スタイルは禁じられた。1943年には国民たちはシベリアに強制移住させられた。移送途中、極寒と飢えで多くの人たちが命を落とした。

 その後、57年には再び自治が認められ、人々はシベリアからカルムイクへ帰還し、91年に共和国となった。エリスタ市内には旧ソ連で見られるような古い建物がない。それは国が一度滅び、再建されたことを物語っている。

1人当たり月に8~10キロ、超肉食のカルムイク人

 ロシア料理といえば、野菜たっぷりの「ボルシチ」や魚のスープ「ウハー」、ひき肉や魚のミンチを皮で包んだロシアのギョーザ「ペリメニ」などが代表的だ。しかしカルムイクで、これらの料理が食べられているわけではない。

 カルムイク人の主食は誰に聞いても「肉」と答える。滞在先の家でも毎日肉料理しか出てこない。カルムイク人が1カ月に食べる1人当たりの肉の量は、平均で8~10キログラム。農林水産省の調査(2016年度)によると、日本人1人当たりの年間消費量は約31.6キログラムだから、カルムイク人は日本人の4倍近い量の肉を食べていることになる。

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