ここ数年、AI(人工知能)やIoTの発展を支える半導体のエコシステムが、世界中で大きな変革を迎えている。そこで中国における半導体の新しいエコシステムをけん引しているAIoT(AI+IoT)領域に注目し、そのポテンシャルを探っていく。

中国で形成された半導体のエコシステムのイメージ(写真/Shutterstock)
中国で形成された半導体のエコシステムのイメージ(写真/Shutterstock)

 コンピューターの頭脳といわれるCPU(中央演算処理装置)は長年、米インテルのマイクロプロセッサーが、米マイクロソフトの「Windows」との組み合わせで、市場を寡占してきた。しかしこの数年、米エヌビディア(NVIDIA)や米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)が手掛けるGPU(画像処理半導体)が、3Dゲームのみならず自動運転からゲノムの解析に至るまで、幅広く使われるようになった。加えて、米アップルや中国の華為技術(ファーウェイ)は独自のSoC(Systems on Chip、CPUに信号処理やカメラ制御など複数の機能をまとめたチップ)を開発するなど半導体のエコシステムは大きな変革を迎えている。

半導体の設計を手掛ける芯原(VeriSilicon)のブース。米フェイスブックのデータセンター向けに開発された動画圧縮処理用チップや米グーグルのスマートモニター“NestHub”シリーズ向けに開発された音声認識チップが紹介されている(CES ASIA 2019にて、筆者撮影)
半導体の設計を手掛ける芯原(VeriSilicon)のブース。米フェイスブックのデータセンター向けに開発された動画圧縮処理用チップや米グーグルのスマートモニター“NestHub”シリーズ向けに開発された音声認識チップが紹介されている(CES ASIA 2019にて、筆者撮影)

インテルを追い越したファブレスメーカー

 コンピューティングの中心がパソコンであった2010年ごろまで、CPUはインテルの牙城であった。インテルは最先端技術を持つ半導体工場(ファブ)を次々と建設し、性能や消費電力の面でライバルの追従を許さなかった。06年、アップルコンピュータ(当時)がこれまで採用していたIBM製のPowerPCに代わってインテルのCPUを採用したことで、インテルの地位は確固たるものとなった。

 一方、消費電力や実装スペースに限りのあるスマートフォンでは、必要とする複数の機能をまとめたSoCが必要となった。米クアルコムや台湾のメディアテックは、英アーム(ARM)をはじめ複数の開発会社から購入した設計図をつなぎ合わせて1つの統合チップに仕上げ、シリコンの製造を引き受ける台湾のTSMCや韓国のサムスン電子などに外注して、商品化した。

 こうしたカスタム半導体の製造を引き受ける「ファウンドリー」は、その普及に伴い受注規模が拡大し続けていたスマホ以外にも、機械学習、画像処理など特定の目的を達成するために必要となるカスタムチップを数多く受注した。そのおかげで研究開発のレベルが格段に上がり、製造技術の面でインテルを追い越すまでに成長した。

 パソコン向けのプロセッサーの領域でインテルのライバルであるAMDも、自社工場を由来とするファウンドリー「GLOBAL FOUNDRIES」への外注を取りやめ、最先端プロセスを採用していたTSMCに発注した。その結果、20年10月発表のパソコン向けCPU「Ryzen 5000シリーズ」は、性能と省電力性の双方でインテルの最新世代CPU「第11世代 Coreシリーズ」を上回っている。

 また20年、アップルはインテルのCPUから自社製SoC「Apple Silicon」への切り替えをアナウンスし、同年11月にApple Siliconを採用したパソコンを発売した。自社が必要とする機能を盛り込んだSoCを、最先端のプロセス技術を持つファウンドリーで生産することにより、圧倒的な性能向上と消費電力削減が見込めることが、切り替えの理由だ。

アップルは20年よりMacファミリーにApple Siliconを搭載することを発表した。Apple SiliconはCPUだけでなく、機械学習に特化したプロセッサー“Neural Engine”やセキュリティー機構“Secure Enclave”など複数の機能が統合されたユニークなチップである(出所: WWDC 2020 Special Event Keynote[https://www.youtube.com/watch?v=GEZhD3J89ZE])
アップルは20年よりMacファミリーにApple Siliconを搭載することを発表した。Apple SiliconはCPUだけでなく、機械学習に特化したプロセッサー“Neural Engine”やセキュリティー機構“Secure Enclave”など複数の機能が統合されたユニークなチップである(出所: WWDC 2020 Special Event Keynote[https://www.youtube.com/watch?v=GEZhD3J89ZE])

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