「火星に人類を送る」「人間を超える知性をAI(人工知能)で生み出す」など先進国のスタートアップでは、既存のビジネスの枠に収まらないビジョンを掲げ、その実現ははるか先というケースが多い。一方、インドやエチオピアなどの新興国のスタートアップでは、先進国で行われていたビジネスのローカライズ版など、起業してすぐに収益が見込めるケースが多い。市場がスタートアップに期待するものの差が、その違いを生み出している。
実直なスタートアップが並ぶ新興国
筆者が共同発起人を務め、この連載の担当メンバーが所属している「ニコ技深圳コミュニティ」では、中国・深セン以外に、さまざまな新興国で調査を行っている。
2018年にはエチオピアの首都、アディスアベバ、19年にはインドのグルグラムにて、スタートアップや起業支援環境などの調査を行った。そうした新興国のスタートアップを調査している中で、米国や中国といったスタートアップ大国とははっきり傾向が異なることに気づいた。
新興国は社会全体に課題ばかりがあふれている。そのうちインドもエチオピアもスタートアップの盛んな国で、大企業が取り組む余裕がない課題を、小回りが利くスタートアップならではのやり方で解決しようとしている。
例えば、エチオピアのスタートアップ、トリプルボトムラインエンタープライズが運営・提供するサービス「Flowius」(*1)は、IoTを使ってこれまでより効率的、かつ低価格に水道メーターを管理するものだ。エチオピアのスタートアップ支援施設「IceAddis」(*2)、「Bluemoon」(*3)などを訪れると、Flowiusを提供するトリプルボトムラインの他にも、インフラストラクチャーの整備や医療などを担う公的機関を相手に、低コスト化・効率化を進めるビジネスを手掛けるスタートアップが目立った。現地の病院が必要とする電子カルテシステムのSaaS企業などがそうだ。
このエチオピアは世界最貧国の一つだ。1億人を超える人口を武器に発展を進めているが、材料を含めてほぼすべての工業製品を輸入に頼る経済状況が続き、国内でビジネスの相手を見つけるのは難しい。スタートアップがビジネスを展開する相手が公的機関ばかりになるのは、そうした環境によるところが大きい。また、先進国では大手企業ばかりが手掛けがちな、インフラ整備などの分野にもスタートアップが参入できるハードルの低さは、エチオピアのような国のスタートアップにとって良い面とも言える。
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