新型コロナウイルス対策で、日本は欧米に比べてはるかに少ない犠牲者で危機に対応できている。強制的な都市封鎖や移動制限をしていないにもかかわらず大きな成果を上げている日本の状況は、世界の注目を浴び始めている。そしてもう一つ、情報提供の形も世界的に見て珍しい。
情報提供を担った中国の大企業たち
新型コロナウイルス対策は、地震や台風のような局地的な災害と違い、すべての市民が対応する必要がある災害である。北海道と東京が同時に危機に見舞われたように、中心となる場が特になく国全体が対応を迫られる。海外との渡航禁止措置をどうするかなどは政治家の問題だが、うがい手洗いの徹底などは市民の行動の問題で、そちらも決定的に重要である。そうした市民の行動を促すのは何より情報だ。
中国では、問題が武漢のみに止まっていたときは情報を統制していたようだが、2020年に入ってある程度問題が大きくなってからは積極的に情報を発表し始めた。とはいえ大本営発表になりがちな中国マスコミの信頼度は、中国国内でも低い。また、日ごとに発表される情報と毎日更新されるメディアとの相性は悪く、長期的な傾向よりも直近の出来事に引きつけられがちだ。
そこで活躍したのは阿里巴巴集団(アリババグループ)、騰訊控股(テンセント)などの大企業だった。省ごとにバラバラに発表される数字を集計し、日ごとの推移を加え、見やすいインターフェースで公開した。
この画面キャプチャーは、中国全体でもまだ都市封鎖が行われていない、2020年1月28日時点で、テンセントが一般に提供していたものだ。判明した患者数、疑似症例(ウイルスは検出されていないが疑いのある症例)、治癒人数、死亡人数の4つの数値を目立たせ、省ごとに色分けして深刻度を示したこの表記は、何度かの試行錯誤の後にデファクトスタンダードとなったもので、各サイト同様の表記になった。アリババも同様に情報を提供し、かつマスクの高額転売を防ぐなど、政府に先駆けて新興企業が動いて存在感を見せたのは、最近の中国らしい。
欧米では、通常通りメディアがこうした情報提供を担った。変わったところではシンガポールで、国民の多くが使っているアプリ「WhatsApp(現在は米フェイスブック傘下にあるメッセンジャーソフト)」にシンガポール政府がアカウントを開設し、患者の増加数やルールの変更などを、健康省(MOH、 Ministry Of Health)からの情報として毎日伝えた。
日本のオープンソースソフトウエア開発者たち
日本でも20年3月半ばごろから、多くの都道府県がLINEにアカウントを開設し、メディアも連日、新型コロナウイルスについての情報を発信していた。ところが、それよりも早く有用な情報を発信しつづけたのは、市民のエンジニアコミュニティーと行政が連携した取り組みだった。これは、インターネットの登場以来、長らく求められつつ、遅遅として進まなかったものが、ようやく形を取って現れたとも言える。
例えば20年3月4日、東京都は「新型コロナウイルス対策サイト」(i)をオープンした。このサイトの開発は非営利団体「Code for Japan」(ii)が東京都から委託を受けて作成し、オープンソースソフトウエアとして公開されている。
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