スタートアップが数多く生まれるイメージがある中国だが、実はここ数年、その勢いが衰えてきている。スタートアップ企業の倒産情報を集めた「死亡公司数据庫(死亡企業データベース)」のデータを筆者が分析したところ、創業企業の「少子高齢化」とも言うべき実態が浮かび上がってきた。投資の減退に加えて新型コロナウイルスの問題も襲い、中国のIT業界もプラットフォーマーの寡占が加速しそうだ。
その日は突然やってきた――。
筆者が中国・深センのコワーキングスペースに入居していた2017年初夏、隣の席にはコミュニケーションロボットを生産販売するスタートアップ企業が5席ほどを利用していた。自律移動し、歌を流し、子供との会話や電話ができるロボットを開発・製造して、活発に営業活動に取り組んでいた。
ある日、彼らが荷物をまとめていた。聞いてみると「引っ越しするんだ」、との答えだった。翌週、コミュニケーションアプリ「微信(ウィーチャット)」を通じて伝わってきたのは、給料の未払いで従業員が訴訟を起こした、というものだった。
スタートアップ企業は生まれる数も、そしてまた倒産する数も多い。中国では創業ブームのなかで、この浮き沈みもまた大きかった。
中国では15~16年にかけて「大衆創業、万衆創新」政策のもとで、ベンチャー投資が過熱した。投資情報大手・清科研究中心のデータによれば、中国のベンチャー投資額は18年に2117億元(約3.4兆円)の過去最高額を記録したが、19年には1577億元(約2.5兆円)へと、依然として巨額ではあるものの、急ブレーキがかかった。ベンチャー投資が厳選されるようになってきた17年は、中国で既に「資本の冬」とも表現されていたが、現在はベンチャー投資総額の減少という新たな段階を迎えている。
「死亡公司数据庫」から見る創業と倒産
目下の新型コロナウイルスの感染拡大も、スタートアップ業界に大きな影響をもたらしつつある。北京のあるIoTスタートアップの創業者の1人は、20年は雇用を増やさず、固定費を下げて、売り上げの立つ既存サービスに注力している。そして20年の目標をこう語った。
「今年は、倒産しなければ成功だ」
創業企業の数は登記データから把握しやすいのに対して、倒産企業の把握は容易ではない。こうしたなかで、中国のスタートアップ業界の情報会社・ITオレンジ社は、ユニークなデータベースを作っている。その名も「死亡公司数据庫(死亡企業データベース)」。スタートアップ企業の倒産事例を投資情報、ニュース情報、ホームページの更新頻度から独自集計したものだ。
同集計によれば、中国のニューエコノミー分野の創業企業数は、15年に2万6189社に達したのち減少を続け、17年には1万3826社へと半減。そして19年には実に3192社にまで低下している(図1)。ピーク時のわずか12%という衝撃的な減少である。一方、倒産したスタートアップ企業は、15年の1132社から17年に2145社へと増加した。当然ながら一定期間営業をしたわけであるから、同一年の創業企業数との比率を取ることには問題があるが、仮に計算してみると「死亡率」は15年の4.3%から17年には15.5%へと急増したことになる。
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