新型コロナウイルスの発生で、中国への過度な依存を分散させる「チャイナプラスワン」の意識が高まっている。そんな中、タイで電子部品のサプライチェーン構築を目指しているのが「Gravitech(グラビテック)」。2015年からバンコクでスタートアップ支援、回路基板製造などのビジネスを始め、近年タイでもメイカームーブメントを起こしつつある。

2019年末にオープンした、Gravitechのタイでの5つ目になる工場。これまでで最大の規模で、1日にPCB(プリント基板)1万台程度の生産能力を備える
2019年末にオープンした、Gravitechのタイでの5つ目になる工場。これまでで最大の規模で、1日にPCB(プリント基板)1万台程度の生産能力を備える

 新型コロナウイルスが、中国のサプライチェーンを襲っている。筆者と関係が深い深センも例外ではない。何人かの友人が深セン周辺で工場を運営しているが、2020年2月後半に入ってやっと操業を再開し始め、3月に入った今も稼働率は50%に満たないところが多い。

 筆者は新型コロナウイルスが猛威を振るう前の20年1月、タイのPCB(Printed Circuit Board。プリント基板とも呼ばれる)工場を訪問していた。運営するのは、タイ・バンコク出身のパン・ツラバビ氏(シャノンというイングリッシュネームを名乗ることもある)が創業した、スタートアップ支援、回路基板製造などを手掛ける「Gravitech」だ。

 PCBの製造では、規模でも、小ロットから大ロットまで可能な柔軟性でも、工場が集積している深センのコストパフォーマンスは圧倒的。パン氏は「コストパフォーマンスで測っても、さまざまな規模や特徴のある工場がそろっているという選択肢の広さでも、中国を使うことは多く、生産のすべてをタイに切り替える話ではない」と前置きしながらも、「未来には何が起こるか分からない。中国の工場が止まる時期でも生産できるように、タイでサプライチェーンを構築することは大事だ。量産でなくて試作までなら、コストの圧力は少ない。そして、連携しているタイの工場を含めて、もっとサプライチェーン全体を改善していくこともできる」と語っていた。

 もしかすると、新型コロナウイルスが奇貨となって、タイへの移転は加速するかもしれない。Gravitechの取り組みを紹介しよう。

 パン氏は米国カリフォルニア州の大学で電気工学のPh.D.(博士号)を取得し、米GEなどの会社で働いた後、カリフォルニアの隣のネバダ州で、Gravitechという電子部品開発の企業を創業した。PCBの製造は、量産と試作の両方の側面を持つ、やや特殊なビジネスだ。

GravcitechのPCBビジネスについて説明するパン・ツラバビ氏。GravitechではさまざまなPCBをタイで製造している
GravcitechのPCBビジネスについて説明するパン・ツラバビ氏。GravitechではさまざまなPCBをタイで製造している

 アイデアを試しに形にしてみるプロトタイプは、1個~数個単位の製造を何度も繰り返す、ゴールの見えない行為だ。その後、実際にアイデアが有用と分かってから、製品として成り立たせるために小さくしたり、コストダウンしたりするための試作に入る。この段階では、数十個単位の試作をゴールに着くまで繰り返す。

 つまり、こうした試作に付き合いながら前進していくビジネスは、コンサルティングと同時に進めていくような形になる。

 マイコンを中心にした機器、デジタルカメラやMP3プレーヤー、すべてのIoT製品は似通った構造を持っている。中央にCPUがあり、それが表示する画面や入力されるセンサー類と情報をやりとりする。そうしたセンサー類や液晶などの入出力機器と、処理装置であるCPUなどは電子回路でつながっている。その電子回路を基板にプリントしたものがPCBで、あらゆる電子機器に入っているといっていい。

 目的の機能を実現するために機器同士をつなげる設計はコンピューターの画面上で行われるが、実際にPCB基板としてプリントアウトしてみると、例えば「強い電流は、すぐそばを流れる弱い電流に干渉する」などの物理現象のせいで、狙い通りに動作しないことがよくある。また、「最初に無理のないサイズの基板を作って動作を確認し、最終的には腕時計ぐらいのサイズにしたいので、その後小型化して、問題なく動くかを何度も試作する」というようなこともよく行われる。そうした試行錯誤は設計を行う発注者と、実際に製造をする製造工場のやりとりが頻繁に発生する。

 そのため、頭に浮かんだアイデアをすぐ形にするために、発注者とPCBの製作会社は、距離が近い方が望ましい。また、ゼロから開発するのではなく、ある程度まとまった機能を備えた「開発ボード」と呼ばれるPCBをベースにすることも多い。このような開発ボードは、設計図や部品リストが公開された、オープンソースのハードウエアであることが一般的。Gravitechはそうしたオープンソースハードウエアの開発ボードの製造販売を主力とし、カスタムのPCBの製造も受託している。さらには、発注者の要望に応じて、設計開発の段階から手掛けるビジネスも始めている。この連載の12回目で取り上げた、深センの「Seeed」とほぼ同じようなビジネスといえる(関連記事「中国のオープンソースのハード開発を支える急成長企業Seeed」)。

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