中でも急成長を遂げているのが釘釘だ。20年1月25日の「リモートワークガイド」「在宅受講プラン」発表に始まり、矢継ぎ早に機能をアップデートさせている。従業員が新型コロナウイルスへの感染の疑いがないか検査するために毎日の体温を報告させる健康カード機能や、ビデオ会議で朝礼を行うときに女性社員が化粧をするのが面倒だという声を取り入れたAR(拡張現実)美顔機能の導入など、スピーディーに対応している。

釘釘が新たに追加したAR美顔機能
釘釘が新たに追加したAR美顔機能

 20年2月初頭には、米アップル社の中国版アプリストアのランキングで、中国最大のメッセージアプリである「微信(ウィーチャット)」を上回るダウンロード数を獲得。中国全土でリモートワークが本格的に始まった20年2月3日には、企業1000万社、2億人超が利用したという。加えて学校での採用も多い。新型コロナウイルス流行後のオンライン授業は、300を超える都市で5000万人超の生徒、学生が利用している。中国の小学生たちが「休校になるかと思ったら、釘釘のせいで授業があるじゃないか」とアプリストアのランキングに怒りの一つ星評価を連打するという、笑い話のようなエピソードも伝えられている。

釘釘が提供しているオンライン授業を開くためのマニュアル
釘釘が提供しているオンライン授業を開くためのマニュアル

ウィーチャットに対抗する肝煎りプロジェクト

 釘釘は14年に始まったプロジェクトで、「湖畔花園マンション」という普通のマンションの一室で産声を上げた。決して使いやすいオフィスではないはずだが、実はアリババグループには肝煎り新規プロジェクトをこの創業の地から始めさせるという習わしがある。B2Cショッピングモールの「淘宝(タオバオ)」、物流ソリューション企業の「菜鳥(ツァイニャオ)」が代表格で、釘釘もまたこの列に加わった。

 14年段階ではリモートワーク、グループウエアなどまだまだ普及する気配すらなかったが、それでもアリババが重要プロジェクトと位置付けたのには理由がある。それはウィーチャットへの対抗だ。11年にサービスインしたウィーチャットはたちまち人気となり、メッセージアプリとして不動の地位を築いた。アリババグループはSNSの「微博(ウェイボ)」に出資したり、決済アプリの「支付宝(アリペイ)」にソーシャル機能を導入したりして巻き返しを図ったが、もはやウィーチャットの天下は揺るがなかった。

 ならば別の切り口で、という起死回生のプロダクトが釘釘だったのだ。企業や学校への地道な売り込みを続け、グループウエアではトップの地位を固めたところに新型コロナウイルスという“追い風”が吹いた。20年2月27日にはメジャーアップデートを発表。SNS機能を搭載するなど、ウィーチャットに近い機能も持ちつつある。

 バイトダンスの飛書も、同じくテンセントに対抗する狙いを持つ。エンターテインメント分野の覇者を狙うテンセントにとって、TikTokを擁するバイトダンスは目の上のこぶだ。ウィーチャットのSNS機能ではTikTok動画をシェアできなくするなどの圧力を強めてきた。そこでバイトダンスもグループウエアという切り口で反攻に出たというわけだ。

飛書のオフィシャルサイト。新型コロナウイルスの流行を受け、無料で利用できる措置を取っている
飛書のオフィシャルサイト。新型コロナウイルスの流行を受け、無料で利用できる措置を取っている

 2社に包囲される形のテンセントもウィーチャットとのシームレスな連係が売りのグループウエア・企業微信を展開する。現時点では、プライベートでもビジネスでも分けることなくウィーチャットで連絡を取り合う人が多い。ならばその既存ユーザーをグループウエアに誘導しようという戦略だが、現時点では成功しているとは言い難い。ユーザー数は20年1月時点で6000万人と釘釘に離されている。新型コロナウイルスを“追い風”にどれだけ追い上げられるかが今後のカギを握る。

企業微信オフィシャルサイト
企業微信オフィシャルサイト
企業微信は新型コロナウイルス対策として、医師へのオンライン問診機能を搭載した
企業微信は新型コロナウイルス対策として、医師へのオンライン問診機能を搭載した

 ウィーチャットの天下がグループウエアの普及で崩れるのか。新型コロナウイルスが巻き起こした危機が、中国IT業界の勢力図を揺るがしかねない台風となっている。