中国では、「公开(GongKai)」という知財の共有モデルが自然発生的に生まれてきた。これに対して、西洋的なオープンソースの概念を持ち込んだのが、深センでプリント基板(PCB)の受託製造や販売を行うSeeed Technologyだ。創業当初は海外でDIYを行うメイカーたちをターゲットにしていたが、近年は中国国内でのビジネスを拡大。オープンソースのハードウエア開発を支えている。

SeeedのWebサイト。世界中のIoT開発者がSeeedのツールを使っている
SeeedのWebサイト。世界中のIoT開発者がSeeedのツールを使っている

 オープンソースのソフトウエアは、現代の社会を支える大事な要素となっている。あらゆるウェブサイト、すべてのスマートフォン、ほとんどのインターネットは、オープンソースのソフトがなければ動かない。米グーグルも中国アリババ集団もオープンソースのソフトの上で開発を行い、多くのオープンソースソフトを発表して、世界中の開発者を巻き込んで技術を発展させようとしている。

 一方で、オープンソースのハードウエアはそこまで広まっていない。私は米国で行われている「オープンソースハードウエアサミット」というカンファレンスに何度か参加しているが、規模は毎回200~300人といったところだ。

 そのオープンソースハードウエアの世界で長年、特別な存在感を放っているのが、中国の深センにあるSeeedだ(現在の社名はSeeed Technology。2014年ごろまではSeeed Studioと称していた)。

 08年創業のSeeedは、ずっとオープンソースハードウエアを主力事業としてきた。ハードウエアのシリコンバレーと呼ばれる深センのサプライチェーンを活用し、世界中からPCBの製造を安価に受注し、深センで製造して発送する。また、製造を請け負うだけでなく、世界中のオープンソースハードウエアの中から需要がありそうなものを探し出し、深センの力で安く製造し、世界に向けて販売もしている。

 オープンソースのハードウエアといっても、無償で提供されるのは回路図の設計データとBOMと呼ばれる部品リストだけだ。緑色のPCBが物理的に配られているわけではなく、公開されている設計データを製品に使いたいと思えば、Seeedのような会社に発注して製造してもらうことになる。

 深センのサプライチェーンを背景にSeeedが始めた面白いアイデアは、基本的にオープンソースの基板のみ製造を受注し、さらに発注者が「Seeedもそのデータを使っていい」というフラグを立てておくと、Seeed自身が製造して販売するようにしたことだ。ハードウエアの世界では、設計データそのものよりも実装された基板の方が重宝されるし、「新しく出たばかりのカメラを、新しく出たばかりのマイコンボードに取り付けるためのPCB」のようなニーズは、世界で同時に取り組む人が出てくる。誰かのアイデアを元に、別種のカメラやマイコンに対応させるような派生アイデアも生まれてくる。こうしてSeeedのサイトは、受注だけでなくものを介したコミュニケーションハブの機能も持つようになった。

 評論家・翻訳家の山形浩生氏は、08年10月にSeeedに発注していて、恐らくSeeedでは最初の日本人顧客だったようだ。ブログにこんなコメントを残している。

 下のArduino(編集部注:マイコン基板の一種)関係でいろいろ見ていたら、こんなSeeed Studioという深圳の会社が出てきた。独自クローンのSeeeduino、細かい工夫もあってちょっとよさげ。ブレッドボードで使いやすくしてるのはいいんじゃないかな。表面実装は評価が分かれるだろうけど。大したお金じゃないので一個注文してお手並み拝見。

 しかし会社としてできたのがこの8月、初めてEagle(編集部注:無償版もある基板設計CADソフト)で基板作ったのが9月で、それが10月末にはこの水準まできてるのは結構すごいかも(良くも悪くも)。ブログを見てると、パーツの入手やこんなちまちました小ロットの生産対応等、かなり深圳の技術集積が感じられて感慨深い。なんだかんだいいつつ、中国はやっぱ進歩しているなあ。

(中略)

 あと、Seeed Studioのやっているホビイスト向けプリント基板作成サービスがおもしろい。30ドル払うと、基板を五枚作ってもらえるけれど、でもかれらもそれをいくつか作って販売する。似たようなニーズを持ったホビイストが他にもどうせいるだろうから、というのがアイデア。もちろん、何に使うのかわからない基板なんかあっても仕方ないから、オープンソースのプロジェクトでなくてはいけないけど、ホビイスト向けのサービスだし、そんな企業秘密なんかあるわけないから無問題。うまく行くとおもしろいので、一般性のありそうなプロジェクトで基板を作りたい人は試して見てはいかが。

(2008/10/31)

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