半導体開発の分野で中国は、2015年以降、コピー品ではない独自のイノベーションに移行しつつある。ドローン(小型無人機)で世界大手の中国・DJIは自社製半導体を採用し、深センのスタートアップからはオープンなアーキテクチャーによるAI(人工知能)専用の半導体を採用した開発ボードが次々と生まれてきた。
ドローンで世界的な地位を有するDJIは中国・深センに本拠を置く。さまざまなハードウエアの分解検証を行っているテカナリエ(東京・中央)のリポートでは、長年にわたって多くのDJI製品が分解・調査されてきた。2012年のDJI創業当初の製品はほとんどが欧米メーカーの半導体(チップ)で構成されていたが、近年の製品では徐々に中国メーカーのチップが取り入れられていることが明らかになっている。華為技術(ファーウェイ)のスマートフォンが自社系列の海思半導体(ハイシリコン)のチップを採用していることはよく知られているが、DJIが使用している中国LeadcoreやGigaDeviceは、DJIのグループ企業ではない。性能や価格の優位性から、中国製チップの存在感が増してきたと考えられる。さらに18年発売のDJI Mavic 2では、RF通信チップ、モータードライバーでDJI独自開発のチップが採用されていることが確認された。
DJIが独自の半導体開発に踏み切った理由は何か。考えられるのは大きく分けて2つ。1つはより高い性能を実現するためだ。ソフトウエアで実行するよりも、最適なハードウエアで直接実行する方が高性能になりやすく、独自の半導体を設計すればさらに最適なものを作ることができる。
ただし、独自開発には長い開発期間や多くの開発工数が必要になる。そのコストを回収するためには、ある程度のロットが見込めなければならない。つまり、DJIが独自のチップを採用し始めたのは同社の高い技術に加え、シェアが拡大してきた証左とも言える。また、半導体は量産効果がきわめて大きいので、シェアがさらに大きくなれば、より高性能で低価格な製品を作ることも可能になるだろう。
DJI以外にも似たような例がある。ビットコインのマイニングマシンだ。黎明(れいめい)期はPC上のソフトウエアで行われるものがほとんどだった。後にグラフィックボードを多数搭載した専用パソコンやFPGA(ハードウエア回路をプログラムで構成でき、ハードウエアに近い性能が実現できるチップ)によるマイニング専用マシンが登場し、さらには最終的には専用チップによるマイニングマシンの開発に至った。こうしたマイニング専用チップも多くが中国で設計されている。
既存のプラットフォームと距離を置く
DJIやマイニングマシンの例からは、独自の半導体を開発するもう1つの理由が見える。特定のプラットフォームに依存せずに距離感を取るという戦略だ。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー