2018年の国内清涼飲料市場で年間販売数量トップに立った「サントリー天然水」。この5年で販売数量は1.5倍に拡大した。どのようなブランド戦略が急成長を可能にしたのか。天然水躍進の立役者、サントリー食品インターナショナルの沖中直人・常務執行役員が、その舞台裏を語る。

2018年の国内販売数量でトップに立った「サントリー天然水」
2018年の国内販売数量でトップに立った「サントリー天然水」

 カテゴリーを超えることで飲料ブランドを活性化しているサントリー食品。本特集では、天然水やBOSSなど中核ブランドに焦点を当て、その裏側にある思想や哲学を解き明かす。

 「サントリー天然水」ブランドの2018年の年間販売数量は前年比9%増の1億1730万ケースに達し、国内清涼飲料のトップになった。1990年以降、日本コカ・コーラのコーヒー「ジョージア」が不動のトップに君臨していた。トップ交代が飲料業界でどれほど画期的な出来事だったかが分かる。

 なぜ天然水は「ジョージア」の牙城を攻略することができたのか。主な理由は2つある。1つは、サントリー天然水の南アルプスの山々に磨かれた「清冽なおいしい水」というブランドイメージだ。自然豊かな水源で採取されたミネラルウオーターというイメージが多くの消費者に支持されている。近年、健康や食の安全に対する意識が高まっているほか、地球環境へ配慮する人が増えたことが追い風になっているのは間違いない。

 2つ目の要因は、ラインアップ拡大戦略だ。具体的には、13年に発売した炭酸水の「サントリー 南アルプスの天然水 スパークリング」をはじめとして、フレーバーウオーターの「サントリー 南アルプスの天然水&朝摘みオレンジ」(14年)、「サントリー 南アルプスの天然水&ヨーグリーナ」(15年)やなどを次々と投入。19年4月には、ついに緑茶「サントリー天然水 GREEN TEA」を発売した。現在、同ブランドの名前を冠した商品は、10種類以上ある。

 天然水には、ミネラルウオーターの印象があるが、実はこうした派生商品を含めてブランドを構成している。近年の販売数量の伸びは、こうした派生商品によるところが大きい。

左から天然水の「朝摘みオレンジ」「ヨーグリーナ」「スパークリング」「GREEN TEA」(写真は現在のパッケージ)
左から天然水の「朝摘みオレンジ」「ヨーグリーナ」「スパークリング」「GREEN TEA」(写真は現在のパッケージ)

間口を広げてシェア拡大

 ただし、増え続ける天然水の派生商品を手に取り、実際に飲んでみると違和感を抱くのも確かだ。例えば、ヨーグリーナは透明で、ミネラルウオーターのイメージからは大きく外れてはいないが、飲むとかなり甘いため天然水ブランドとしては意外な印象を受ける。GREEN TEAに至っては、緑茶だから液色は緑。天然水は透明という先入観を持っていると、奇妙に感じる人もいるかもしれない。

 多様な味や色の派生商品を増やすことは、天然水ブランドのイメージを毀損する可能性があるのではないか。そうした疑問をぶつけると、天然水のシェア拡大を主導したサントリー食品インターナショナルの沖中直人・常務執行役員は、「実は社内でも、フレーバーウオーターは邪道だとする意見もあった」と打ち明ける。その上で「なぜ、清冽な水はプレーンでなければならないと考えるのか。コーヒーや緑茶も水からできている。清冽なおいしさを保ちながら、味や色が付いた商品を消費者がどこまで受け入れるのかをフラットな視点から議論すべきだ」と反論したという。

 沖中氏は、「清冽なおいしい水」というブランドの軸がぶれていなければ、フレーバーや緑茶といった商品を展開してもブランドイメージは壊れないというゆるぎない自信を持っている。むしろ、天然水の価値を広く伝えるには、こうした派生商品を積極的に展開すべきだと沖中氏は主張する。こう考えるのは、天然水がどこか近寄りがたいイメージをまとっていることが大きい。

沖中直人氏<br>サントリー食品インターナショナル常務執行役員<br>ジャパン事業本部戦略企画本部長
沖中直人氏
サントリー食品インターナショナル常務執行役員
ジャパン事業本部戦略企画本部長
サントリー食品のブランド戦略のポイント(1)
・消費者との「関係性」を見つけるまで試行錯誤する
・企業トップの感覚でブランドをマネジメントせよ

※詳しくは次ページ以降をご覧ください

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